実店舗の販売スタッフをインフルエンサーへ、という動きは多くのアパレル企業で起きているが、パルでは数年前から動き始めていた。時代を先取りした取り組みが功を奏し、2019年9月時点で全アカウントのフォロワー数を合計すると340万にものぼると言う。
実店舗への来店はもちろん、ECの売上にも貢献。パルグループ全体のEC売上高は前年度比138%と成長を続けており、オムニチャネル成功企業として注目を浴びている。ECの責任者でありSNS評価制度の仕掛け人でもある、デジタル部門を統括する堀田覚さんに聞いた。
オーガニックの発信が力に 継続できる仕組みを作る
堀田さんはパルのECのみならず、PR、オムニチャネル、CRM等コミュニケーションとデジタル部門を統括する立場にある。そのキャリアを振り返ると、新卒で入社したアパレル企業で、店舗運営やMD、ブランドの責任者などを経験、次の雑誌社ではメディアコマースサイトの立ち上げに参画し、MDとデジタルを含めたマーケティングの責任者という立場にあった。
「パルも同様ですが、企業=あるひとつのブランドという一体型ではなく、複数の業態、ブランドを持つ企業で働いてきました。その経験から、直接ブランドにかかわっているメンバーにはない視点や仕組みを啓蒙する立場に立つようになりました。たとえば、今は実店舗とマス広告中心のやりかたから変革が求められていますよね。このようなアップデートが求められる時に、新しい領域にどう挑むか、戦略を考え、提案し、実行していくのが僕の役割です。ECはあくまで、出口に過ぎないと考えています」
堀田さんがパルでまず求められたのは、マーケティングを時代にあわせて変革すること。折しも、感度の高い人たちがInstagramを利用し始めた時期と重なった。
「TwitterやFacebook、Instagramを利用する人が増えていくなか、旧来メディアと比較して、個の情報発信が遜色なくなっていると感じていました。雑誌社のメディアコマースでも、エディターが顔を出して発信するコンテンツへのお客様の支持が非常に高かったんですね。情報の受け取りかたが『この人の発信だから見る』というふうに変化してきているし、趣味趣向も細分化してきている。もっと、個人が前に出ていったほうがいいと思っていましたし、世の中の動きもそちらに向かって加速していきました」
そのような課題感を持ってパルに入社し、マーケティングのデジタル化を進めることになった堀田さんがまず目を向けたのが、実店舗の販売スタッフだった。
「当時すでに、スタッフの着こなしは人気コンテンツでした。ZOZOのWEAR、Instagramでそのコンテンツを見てくださる方を増やすことで、企業としての発信力が強くなると考えました。オーガニックで発信することが、今の時代っぽいし、それがマーケティングの主流になる。コンテンツを発信し続け、フォロワーを増やすノウハウを作ることが重要だと考えました」
すでにパルには、自主的にSNSを活用して多くのフォロワーを抱え、来店や売上につなげている販売スタッフがいた。そうではないスタッフにも発信を行ってもらうために、どのような仕組みを整えるべきか。堀田さんは試行錯誤する。
「当初は年に数回、フォロワー数を増やした上位何名を表彰する、という形をとっていましたが、回を重ねるうちに、相対的な評価になってしまうことに気づきました。会社にとって、スター的な存在がいるのは良いことですが、発信の量やバラエティを考えると、一部のスタッフだけでなく、みんなに発信してもらったほうがいい。そのためには、絶対的な評価がいるだろうと考え、2017年からは個人アカウントのフォロワー数によって、手当を支給する形にしました。その数に達していれば、誰もがかならず給与がアップする仕組みです」
評価以外にも、投稿を続けられる仕組みも作っていった。
「フォロワーの多いスタッフは、継続して投稿し、投稿の結果をデータで見て、その後の投稿に活かしているんですよね。20投稿くらいしてみたものの、反応がないのでやめたくなってしまう人もいるんです。それに対し、毎日とは言わないけれど、ある程度継続して100投稿くらいはやってみよう。するとひとつくらい、反応が良い投稿が出てくるから、何が良かったのかを考え次に活かそうと。他にも、写真を撮るテクニックとして、構図、光の入れかた、ポージング、トリミングなど、悩む必要のない、最低限のポイントを教えています。一方で、個性が損なわれてしまうような制限をしないことも重要だと考えています」
さらに、パルのアプリ「PAL CL OSET」では、これぞというスタッフの投稿をピックアップして掲載している。そこで紹介され、注目を浴びると、一気に1,000単位でフォロワーが増えることもあるそうだ。ちなみにこのアプリ、スタッフアカウントごとの表示にし、個人とのつながりを強くすることにこだわって堀田さんが手がけたものだ。
それぞれのスタッフが投稿を継続できるよう、テクニックとモチベーションを保てる仕組みを作った上で、個性は損ねない。堀田さんのさじ加減の絶妙さを、340万フォロワーという数字が証明している。