多くの小売事業者が悩み続けている「在庫問題」
ECに限らず実店舗を含めたすべての小売事業者にとって、売上増加は至上命題といえる。それを実現するためによく行われるのが、取り扱い商品数や1商品あたりの在庫点数を増やすという「在庫を積む」やり方だ。
たしかに在庫を増やせば売上も増加しやすいが、同時に過剰在庫・不良在庫を抱えてしまうことも多い。かといって、不良在庫を出さないために在庫を絞ると売上を増やすのはどんどん難しくなっていく。このように、売上の増加と在庫の適正化を両立させるのは難しく、多くの小売事業者にとって悩みの種となっている。
フルカテインではこうした問題を「在庫問題」と呼び、それを解決することを自社のミッションとして掲げている。
「当社も2012年の創業からベビー服販売のEC事業を展開(※2018年9月に事業譲渡)する中で、やはり在庫問題に悩み続けてきました。売上を伸ばすために在庫を増やしたことで不良在庫も増え、資金繰りに苦しんで倒産の危機を3回ほど経験しました」と語る瀬川さん。
そうした経験を通じて得られた知見やノウハウをベースに開発されたのが、在庫問題を解決するクラウドサービス「FULL KAITEN(フルカイテン)」だ。
「率」の改善は、なぜうまくいかないのか
在庫問題の原因の一端は、これまで小売業界で売上増加のために「常識」として行われてきたさまざまな取り組みが、実は適切ではなかったことにあると瀬川さんは指摘する。
たとえばECで注文件数や販売数を増やすことを目的としてよく行われるのが、クリック率やコンバージョン率の改善だ。そのために高額なアクセス解析やMAツールなどを導入している事業者も多い。
「こうした取り組みでなかなか成果を実感できないという声をよく聞きますが、それは『率』の改善だからです。率の改善は、分母がよほど大きい数字でなければビジネスへのインパクトはごくわずか。中小規模のECサイトでは、効果を実感できるほどの売上増加にはならないでしょう」
また、率の改善は部分最適になりがちであり、ある箇所を改善しても別の箇所が悪化してしまうようなことも多いという。
「分母の数が大きい超大規模サイトなら、率の改善でも部分最適の副作用が吹き飛ぶほど売上が増えることもありますが、ほとんどのEC事業者はそのレベルにありません。経験上、月間で数百万PVほどのECサイトでは、率の改善を頑張っても部分最適の副作用を吹き飛ばすほどの効果は出ないでしょう。そのため、率の改善とは別の戦い方をしないと、コンスタントな売上増加は非常に難しいのです」と瀬川さんは補足する。
売上増加のために狙うべき客単価帯を把握する
売上増加を目指して在庫を増やすのは、注文件数(販売数)を増やすためだ。これは、売上を増やすには「数」を売る必要があるという従来の考え方に基づいている。そして各社とも、「数」を売るために「率」の改善に注力するのだが、瀬川さんによれば、数を追いかけなくても売上を増やす手段はあり、それをFULL KAITENの売上増加機能として実装しているという。
まず、鍵となるのは「客単価」だ。売上は注文件数×客単価であり、売上を注文件数で割った値が客単価である。数(注文件数)を追わずに売上を増やすには、この客単価を上げればよいということになる。
「FULL KAITENには、客単価帯別の注文件数の分布を棒グラフで可視化する機能があります。これにより、現在の売上がどのような客単価帯で構成されているのか、どの客単価帯が注文件数のピークになっているのかなどもすぐに把握できます」
客単価を上げるためには、注文件数がピークになっている客単価帯よりも高い客単価帯の注文件数をもっと増やす必要がある。たとえば、現在のピークが3,000〜4,000円なら、「4,000〜5,000円」の客単価帯の注文件数を増やす施策を打つというように、棒グラフから「狙うべき客単価帯」が見えてくるというわけだ。また、複数店舗を運営している場合なら、店舗別にこれらの情報を見ることが可能だという。
「狙った客単価帯の注文件数を増やして売上増加に成功しながら、トータルの注文件数はあまり変わらないというケースが実際に多いですね。お客様の懐事情は短期間で大きくは変わらないので、必然的に下の客単価帯の注文は減っていきます 。合計の注文件数がほとんど変わらない状態で売上が増加するということは、運賃などのコストを考慮した時に利益が増加することになりますので、FULL KAITENユーザーの皆様には非常に喜んでいただいています」
「売上貢献スコア」に基づいて、何を売ればよいかを提示
では、狙った客単価帯の注文件数を増やすには、どんな商品を重点的に売ればよいのか。FULL KAITENはそこをサポートする機能も備えており、客単価帯別に何が主力商品となっているのか、その分析結果を表示できる。これを参照し、該当する客単価帯の主力商品に注力して各種販促施策を展開すればよい。
FULL KAITENを活用することで、たとえば広告を打つ際や、バナーやLPを制作する際も、漠然とした「率」の改善ではなく、売上増加のために何をどれくらい売ればよいのか、しっかりと狙いを定めたうえで販促計画までつなげていくことができる。
この「何を売ればよいか」という分析は、FULL KAITEN独自の「売上貢献スコア」というテクノロジーによって実現している。
「売上貢献スコアは、その商品がひとつでも含まれている注文の平均客単価と、AIによる今後の販売予測値をもとに自社開発のアルゴリズムで導き出しています。売上貢献スコアの高い商品は、狙いどおりの客単価になる確率が高く、かつ今後も売れる見込みが高い商品ということになります」と瀬川さんは説明する。
また、商品の分析結果として、「単品販売に適した商品か」や「どの商品と一緒に注文されたときに狙った客単価になるのか」など、単品向きか同梱向きかの目安となる情報も提供される。これにより、売上貢献スコアが高い商品の同梱セットを提案したり、商品ページでの合わせ買いのレコメンド設定などに活用することも可能だ。
「商品起点」でマーケティングを捉え直すべき
FULL KAITENの売上増加機能により、「どの店舗で」「どういう客単価を狙って」「どの商品を」「どんな組み合わせで」売るかを突き詰めていけば、「売上はパズル感覚で増やせる」と瀬川さんは言う。
「そうなると、売上貢献スコアの高い商品をいかに打ち出していくか、販促施策を考えるのも楽しくなってきます。売上増加のためにと数字だけを追いかけるのではなく、『主役』である商品に向き合って、モノを売る楽しさを感じていただきたいですね」
アクセス解析、ウェブ接客、A/Bテスト、MAなどのマーケティングツールをもとに進められるECのマーケティングでは、この「商品が主役」という当たり前にも思える視点が欠けていることが多いのではないかと瀬川さんは指摘する。
「いかに効率よく売るかということばかりに特化して、肝心の商品が置いてきぼりになっているように感じます。もちろん、既存のツールはまったく使う意味がないというわけではありません。『何をどう売るのか』を明確にしたうえで、その商品を実際に売るための導線の改善などに使うなら十分意味はあります。ただ、そこが抜け落ちたままツールを使って数字だけを改善しようとしても、成果は出ないでしょう。小売企業のマーケターの方たちには、ぜひマーケティングを『商品起点』で捉え直していただきたいと思います」
顧客の声を取り入れて機能強化を図った新バージョンをリリース
2019年2月、FULL KAITENのバージョン2がリリースされた。売上増加機能では、とくに「同梱の提案」を強化している。
「バージョン1は商品の組み合わせについて人間が考えなければならない部分がまだ多かったのですが、バージョン2では統計計算の結果として組み合わせの『答え』まで提示できるようになりました。予測アルゴリズムの精度も向上しています。また、店舗ごと、倉庫ごとなど、ユーザーの小売事業者の方が見たい単位で、より柔軟に分析結果を見ることができるようになりました。その点は、かなりこだわったポイントです」
これらの多くは、バージョン1のユーザーからの要望に応えたものだという。
「実務ご担当者が『分析結果をどのようにマーケティングに活かすか』というところに注力できるように、分析そのものには極力時間を使わずに済むツールを目指しました」
もちろん、在庫削減機能や仕入れ最適化機能も強化されている。売上増加機能の「売上貢献スコア」とともに、「価値変動評価」(在庫削減機能)、「変動発注点」(仕入れ最適化機能)の3つのテクノロジーについては特許出願中であり、自社で6年間EC事業に取り組みながら在庫問題を研究してきた成果としてバージョン2に盛り込まれている。
なお、FULL KAITENのユーザーはEC・実店舗どちらにも導入されており、業態も規模も幅広い。大手の小売企業や楽天市場の上位店舗など、月商で1億円から数十億円という事業者に導入されているという。この規模になると、店舗が複数あり、取り扱う商品数、SKU数も数万~数十万というケースが多いので、もはや人間の分析能力では対応不可能だ。そのような規模感で売上増加や在庫適正化に課題を抱えている事業者にとって、FULL KAITENは救世主となるかもしれない。分析専門の人材を1人配置するよりもはるかに低コストで、同等以上の成果を得られるはずだ。