どこで購入したかは顧客にとって関係ない
シンプルな評価軸は、「お財布を一緒にすること」
――村田さんはベイクルーズにいらっしゃったこの10年間、どのような考えのもとに事業を展開してきたのでしょうか。
村田 企業が今後成長していくためには、ECに限らずあらゆるビジネスプロセスをデジタルシフトしていかなければならない、という考えで仕事を進めてきました。管掌領域としては、EC、情報システム、デジタルマーケティング、ロジスティクスなどを担当してきましたが、ECやオムニチャネル化について計画したことはある程度進められたと考えています。僕が入社した当時に比べれば、会社全体としてもECに対する意識は大きく変わったと思います。
樋口 世の中的にも、ECというものの位置づけが大きく変わった10年でしたね。かつてアパレル業界では、「ECなんて……」という扱いを受けていましたから。
村田 以前は「会社の中でも存在感が薄く、どんな仕事をしているのかよくわからない人たち」という見え方でした。しかしようやくECをはじめとして、デジタル領域に携わる担当者の社内的なプレゼンスも高まり、ビジネスを成長させていくうえで重要な役割、という位置づけが浸透してきたと思います。
――一方ECの価値が高まってくると、現場の方から「売上が上がっても店舗の実績なのか、ECの実績なのかを評価するのが難しい」という声も多く耳にするようになりました。
村田 最もシンプルな考え方は、細かく評価制度を設けるのではなく、お財布の中身を一緒にすることだと思います。つまり、ECも実店舗も分け隔てなく、「ブランドや事業」という軸で売上を捉える。そもそもECで購入したか、実店舗で購入したかは、顧客にとってはまったく関係のない話ですよね。
――あくまでも、顧客体験に寄り添った評価が必要になる、と。
樋口 かつては「渋谷店vs品川店」といった店舗同士でも競い合わせていましたが、顧客のIDが取れる今となっては時代にそぐわない発想だと思います。
そもそも同じIDの顧客が、渋谷でも新宿でもEC店舗でも購入することは、ブランドにとって大きなメリットです。さまざまなデータを見ていくと、買い回りをする顧客ほどブランドに対するロイヤリティが高く、購入価格も上がることがわかっています。特に、実店舗とECを併買する顧客の購入回数は、どちらかを利用する場合の1.5倍ほどにもなるんです。「どの店がいくらを売り上げた」という評価軸では、このような実態は見えてきませんよね。