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年間43万人の外国人旅行客が殺到!「チラシ」でリピートを促進する多慶屋×tensoの越境EC施策
実店舗の越境ECを阻む組織の壁 成果は「経由」が正解か
村山らむね 今回は考えぬいた末の「チラシ」というアナログな着地点でしたが、一方で、多くの実店舗では、ネットを活用した施策があまり出てきていないのではないでしょうか。たとえば、メールアドレス入れなければならないフリーWi-Fiは評判がイマイチなのであれば、SMSやショートメッセージで返してURLをはき出し、「帰国後はこのECサイトをご利用ください」といった施策にするなど、いくらでも考えられそうですが。
浜田(tenso) おそらく、まだリピートの発想までいかない事業者さんがほとんどなんでしょう。そんななかで多慶屋さんが群を抜いていらっしゃるのは、実店鋪とネットの担当者の距離がとても近いのも、1つの要因だと思います。
村山らむね 西行さんは、今はネット通販部の副部長でいらっしゃいますが、実店舗での経験もお持ちだということでしたね。
吉田(多慶屋) 西行は、当社のネット通販事業の黎明期に、1人で運営していたんです。
西行(多慶屋) そうですね。先ほどお話ししたように、1998年に楽天市場に出店しまして、1999年あたりに自社のサイトを情報システム部が作りました。それを実際にどう動かしていくかは、店舗の若手に意見を聞いてみようといった具合で話が来まして、まずは情報システム部に異動、翌2000年まで所属しました。というのも、ネット通販で月1,000万円売り上げることを目標に立てたのですが、ものの3カ月ぐらいで目標を達成してしまったんです。
村山らむね それは素晴らしいですね。
西行(多慶屋) 目標を達成したため、また実店鋪に戻り、化粧品、薬品、健康食品、日用雑貨などカテゴリーの責任者を務めました。その頃すでに、海外のお客様がよく化粧品を買って帰られるのを目にしていました。その当時は免税にも取り組めていなかったので、「もったいない、もっと売れるのに……」と悔しい思いを抱えていました。
その後、またネットに戻ると、今度は国も免税店を増やすのに積極的になり、当社への海外からのお客様も一気に増えて、現場は本当に混乱していました。そんな中、私はネット担当者として、「手ぶらで帰国していただくには」「買い忘れたものをネットで買っていただくには」「帰国後のリピートも当社で買っていただくには」といった施策を考えていたんです。
村山らむね 実店舗とネット、どちらも経験されていることが、部署を超えた発想を生んでいるんですね。
西行(多慶屋) はじめにネットの担当者になった頃は、実店舗から商品が供給されませんでしたよ。実店舗の担当者は、自分たちのフロアの商品は自分たちで売りたいものですし、サイトに商品を掲載するのもひと手間、売れたら補充するのにまたひと手間余計にかかるわけですから、自分たちが毛嫌いされているのは感じていました。
そこで、「ネット通販の売上」という概念をなくし、「ネット経由の売上」で見ることにしたんです。そして、売上は商品供給元の実店舗に戻しました。最近、オムニチャネルで同じような考えかたを耳にするようになったのですが、実は当社では、15年ほど前からそのように取り組んでいたんです。要するに、ネットの売上は実店舗と二人三脚で作っていきましょうと。
村山らむね それはすごい、非常に進んでいらっしゃいますね。カメラのキタムラさんも、同じようなお取り組みをされていたと思います。
西行(多慶屋) はい、そうですね。今のミッションは、限られた実店舗のスペースをいかに有効に活用するか、在庫を効率的に回すか、です。まずは、私がバイヤーの権限を持っていることもあり、ネットで売れているものを実店舗に置いたり、またその逆のパターンにも取り組むことから始めています。私はネット側から、その全社的なミッションに取り組んでいるところです。