限界CPA=これ以上かけると採算が合わないライン
限界CPAとは、シンプルに言えば「これ以上かけると採算が合わなくなる獲得単価」のことです。
言い換えると、顧客1人を獲得するために投資できる上限額です。この金額を超えて投資すると、その顧客から将来的に得られる利益では回収できなくなります。
この考え方は、守りの数字であると同時に、攻めの数字でもあります。
無理な投資を止めるためのブレーキである一方で、「ここまでは使ってよい」と判断できることで、勝てる領域にしっかり予算を投下するための基準にもなるからです。
現場では、CPAが高騰すると不安になりやすいものです。ですが、本当に見るべきなのは「高いか低いか」ではなく、「そのCPAが、その事業構造に対して妥当かどうか」です。
同じ5,000円のCPAでも、ある事業では高すぎるかもしれませんし、別の事業では十分許容範囲かもしれません。絶対値としてのCPAではなく、自社のLTVや利益構造に照らして評価することが重要です。
限界CPAはLTVではなく「変動利益」から考える
ここでひとつ重要なのは、限界CPAはLTVそのものをそのまま使って決めるものではない、ということです。
たとえば、LTVが20,000円だから、CPAも20,000円まで使ってよい、という話ではありません。 LTVはあくまで売上です。投資判断に使うには、そこから利益ベースに引き直す必要があります。
基本的な考え方は、次の通りです。
変動利益(※) = LTV × 粗利率 − 注文に連動する販管費
この変動利益の範囲内で、どこまで獲得コストをかけられるかを考えるのが、限界CPAの基本です。販管費は「変動費か固定費か」という会計上の区分よりも、「注文に連動するか、しないか」で判断して分けて理解するのが実務的です。
※厳密には会計上の「変動利益」とは異なりますが、便宜上「変動利益」と記載しています。たとえば、LTVが20,000円、粗利率が70%、注文に連動する販管費合計が3,000円だとすると「20,000円×70%−3,000円=11,000円」となります。
この場合、顧客1人あたりの変動利益は11,000円です。つまり、少なくともこの水準を大きく超えて獲得コストをかけてしまうと、顧客単位では採算が合いにくくなる、という見方ができます。
もちろん、実際にはどの期間のLTVで判断するか、どこまでを注文連動販管費に含めるかによって数字は変わります。ただ、考え方としては、まずこのようにLTVを利益ベースに引き直すことが出発点になります。
ここでポイントになるのは、販管費の見方です。
先ほどもお伝えした通り、実務上は、「固定費か変動費か」という会計上の分類だけで考えるよりも、「注文に連動して増えるかどうか」で分けたほうが判断しやすいことが多いです。
たとえば、以下のような費用は注文に連動する費用の代表例です。
・物流関連費
・梱包資材費
・決済手数料
・同梱物の原価
一方で、以下のような費用は、少なくともこの計算ではいったん外して考える費用です。
・本社人件費
・家賃
・SaaS利用料
・管理部門費用
・固定の外注費
これは、固定費が不要だからではありません。固定費は新規顧客にだけひもづくものではなく、既存顧客を含めた事業全体にかかる費用だからです。
そのため、まず「新規顧客を1人獲得したときに、どれだけ利益が残るか」を見る段階では、注文に連動する費用を差し引いた変動利益ベースで考えるほうが、投資判断の基準として置きやすくなります。最終的にはこれらも含めてP/L全体を見なければいけません。
回収期間をどう置くかで、限界CPAは変わる
もうひとつ重要なのは、限界CPAは回収期間によって変わるということです。
同じ顧客でも、1年間で回収したいのか、2年間で回収してよいのかによって、投資できる額は変わります。 当たり前ですが、長く回収を見込めるほど、許容できるCPAは大きくなります。
たとえば、1年間のLTVベースなら限界CPAが10,000円でも、キャッシュフローに余裕があり2年間のLTVで回収すると決めれば、限界CPAをさらに引き上げて勝負できるかもしれません。LTVが十分高くても、その回収に3年かかるのであれば、キャッシュフロー上はかなり厳しいかもしれません。
特に広告費を先に払い、売上を後から回収するECでは、会計上の利益と資金繰りは別問題です。
そのため、限界CPAを考えるときには、「最終的に黒字になるか」だけでなく、「どれくらいの期間で回収したいのか」を明確に置く必要があります。
ここで初めて、LTVが実務の投資判断に使える形になります。
前回まで触れてきたように、LTVには時間軸があります。そして、限界CPAはその時間軸を前提に設計されるべきものです。
つまり、限界CPAとは、単なる利益の話ではなく、利益と回収期間の両方を踏まえた投資判断基準だと捉えるべきです。
