スタッフと店舗が紡ぐ「情緒的価値」がLTVを最大化する
ECサイトやアプリがどれほど便利になっても、機能的な価値だけでは競合との差別化は難しく、真のファンを醸成することはできない。そこで重要となるのが、ブランドの最大の資産である「店舗」や「スタッフ」が持つ熱量をデジタルに転換する「情緒的価値」の提供だ。
ジュエリーブランド「agete(アガット)」などを展開するエーアンドエスの飯塚氏は、商材特性ゆえの課題を次のように語る。
「ジュエリーはアパレルと比較して新作の投入頻度が少なく、購買サイクルも長い。そのため、意識的にブランドを想起してもらう機会を作らなければなりません」(飯塚氏)
その解決策として同社が注力しているのが、アプリを介した店舗スタッフによる情報発信だ。具体的には、各店舗のスタッフが自店のフェアや限定商品、おすすめのコーディネートを「店舗ニュース」としてアプリに投稿している。

ここで興味深いのは、単なる情報発信に留まらず、本部がそのニュースによる来店促進効果を数値分析し、店舗へフィードバックしている点だ。「スタッフが誰でも効果を可視化できるようにすることで、投稿へのモチベーションを高めています」と飯塚氏は明かす。
この施策の肝となるKPIが「お気に入り店舗登録」だ。アガットでは、店舗での接客時に「お気に入り登録」を案内し、お客様の感情が最も高まる瞬間にデジタルでの接点を作ることを徹底している。「お気に入り店舗登録は、お客様と店舗とのデジタルでの接点を作る入り口。接触を積み重ねてブランドを忘れられない状態にし、ジュエリーが欲しいと思った瞬間に第一想起される存在を目指しています」という飯塚氏の言葉は、LTV向上の本質を突いている。
一方、トゥモローランドの上田氏も、スタッフを起点としたOMO施策の重要性を強調する。同社のロイヤルユーザーのほぼ100%が店頭購入を中心としており、特定のスタッフに信頼を寄せているケースが多いからだ。そこで同社が開始したのが、Brazeを活用した「Thank you(スタッフ紹介)配信」である。

これは店舗で購入した翌日に、「昨日はご利用ありがとうございました」というメッセージとともに、接客を担当したスタッフのスタイリング一覧へのリンクをパーソナライズして届ける仕組みだ。上田氏は、「特定のスタッフのファンになってもらうことで、再来店やロイヤル化を促進しています。また、これまでスタッフが手書きで送っていたダイレクトメールをデジタルで代替し、負担を軽減する狙いもあります」と語る。
分析の結果、スタッフやスタイリングをお気に入り登録した新規ユーザーは、平均的なユーザーと比較してF2(2回目購入)転換率が約3倍、6ヵ月間の購入金額も約2倍という驚異的な数値が出ている。インセンティブに頼らずとも、スタッフというブランドのアセットを活用することで、顧客の行動変容は十分に可能であることを証明している。

