価格競争に巻き込まれないブランド構築 “ファン”を作る三つのポイントを整理
コロナ禍に急速に拡大した日本のEC市場。この時期に新規でECサイトを立ち上げた人も、読者の中にはいるのではないだろうか。そこから早数年が経ち、市場は「成長期」から「成熟期」へと移り変わった。行動制限があった数年間の反動で、今やブランドやECサイトの“競合”は物販事業者ではなく、「コト消費」を扱う事業者にまで広がっている。
「消費者の財布を取り合う相手が競合他社だけではない点を自覚しなければならない。そういった状況だと私は考えています。そんな環境下で、最も安易ですが危険な選択肢が『価格競争』に巻き込まれることです。価格を下げる施策自体は容易ですが、それはブランド毀損と収益性の悪化を自ら招くことになります」
この負のスパイラルに入りこまないよう、安原氏が提案するのは「“ファン”を基盤としたビジネスモデルを構築すること」だという。フューチャーショップでは「ECにおけるファン」の定義を次のように説明している。
「まず当てはまるのは、高い顧客生涯価値(LTV)をもつユーザーです。単発もしくは特定の商品のみの購入ではなく、長期間にわたって継続的に商品購入をしていただけているか。新商品にも関心をもっていただけているか。これらに当てはまるユーザーは、ブランドの安定した収益基盤となる貴重な存在です」
第二の定義として挙げられたのは「ブランド・アドボカシー(推奨)を自発的に行うユーザー」だ。安原氏は「これは非常に強いマーケティングとなる」と強調する。
「今の時代は、ブランド側から発信する情報よりも、購入者が自ら語る体験談のほうが信頼性が高く、質の高い新規顧客獲得にもつながりやすいです。実際に、皆様もレビューの収集など取り組まれているのではないでしょうか」
そして第三の定義は「コミュニティへの参加」である。ファン度が高まれば、ブランドが企画するライブ配信やイベントなどの催し物にもポジティブな反応を示し、主体的に参加したり他の顧客とコミュニケーションを図ったりといった連鎖反応が生まれる。これはブランドへの帰属意識を強固なものにするだけでなく、「商品企画やサービス改善といった、成長につながるフィードバックを得る場としても機能する」と安原氏は補足する。
こうした熱狂的なファンがコミュニティ化し、経済活動の中心となるシステムは既に「ファンダムエコノミー」と名付けられている。この経済圏に所属する“ファン”は、商品の価値を価格だけで捉えず、ブランドがもつ世界観やそこから紡がれるストーリーへの共感、自身が商品やサービスを使うことで得られる体験などトータルで評価、選別する。
「企業からすれば収益性の維持、売上成長、ブランド価値向上のすべてを実現できるため、今後“熱狂的なファン”をどれだけ増やしていけるかは、非常に重要な課題になると考えています」

