AI時代のキャリア構築・業務改革に必須なのは“推進力”よりも“傾聴力”
陣内 私はウェブの最適化、守安さんはCRMやファーストパーティデータ収集の最適化をミッションとしていますが、これらは単に良い技術やツールを取り入れたら成功するというわけではありません。DXも同じです。日々の業務を推進するのは「組織」であり「人」なので、私たちは技術と人のつなぎ役を買って出るべき存在なのかなと考えています。
守安 実際にメール配信システムを移行した際に体感したのですが、既存のツールや仕事の仕方を変えるには「相手の欲しいもの」「絶対に失いたくないもの」「何に対し怖い、不安だと思っているのか」をとにかく聞いて理解する時間が必要です。こうした対話が普段からできている組織は強いですし、このステップに時間をかけずに無理やり変革を起こそうとしてもうまくいきません。
ネスレ日本でも、メールの配信システムは2段階に分けて移行しました。準備段階も含めて1年弱、別のシステムを使っていたブランドはマイグレーションも含めると1年半ほどかかりましたが、お互いの譲れないものを理解するのに時間をかけたおかげで、前出のカート放棄メールなどできることが増えたと思っています。
━━お二人はデジタルに精通していらっしゃいますが、社内全体でITリテラシー向上の動きはありますか?
陣内 私が所属するWeb&Experience&Search部主導で、外部講師を呼んで勉強会を行ったり、ブランド担当者からリクエストを受けて「より良いウェブ上の体験を作るにはどうするか」といった意見交換をしたりという動きはあります。また、社内のポータルサイトにはグローバルのデジタル戦略や成功事例が共有されていて、参考資料はたくさんある状況なのですが、拾いに行くかは個人の興味関心次第なところがまだまだ課題ですね。今後は、社内全体の知識活用やスキル向上を組織的に底上げできるよう取り組んでいきたいと考えています。
守安 ビジネスとITどちらも理解できる人材が今後より求められることは間違いありません。相互理解を深めるためにも、人材交流や育成の取り組みが進んでいくと、組織単位でのリテラシー向上がよりスムーズになると思います。
私自身、これまではマーケティング領域のキャリアを歩んでいて、ITやデジタルとの関わりが生まれたのはネスレ日本に入ってからです。まだまだ勉強中の身ですが、視野が広がったり引き出しが増えたりキャリア的にはポジティブに捉えられることが多いので、後に続く人が増えるような働きかけも考えたいですね。
陣内 相談や質問を積極的にしてくれるブランド担当者は、やり取りをするうちに体験構築の理想図が見えてくるのか、徐々に話が早くなっているように感じます。ある部署からリクエストがあって、SEOとペイド広告の運用について外部講師を交えてレクチャーした会では、最終的に他の部署からも参加者が集まって120人ほどの規模になりました。興味関心や行動力のある人が多いのは、ネスレ日本の良いところだと思います。
守安 ビジネスとIT双方の知識があると、「消費者を置き去りにしない体験価値提供って何だろう」と共通言語ができるので、部署を越えた一体感がより生まれやすくなる期待感があります。便利なものに頼ったり、最適化というワードに縛られたりすると消費者目線が失われがちなので、今後も意図的にこうした話はしていくつもりです。
━━最後に、お二人の今後の展望をお聞かせください。
陣内 単なるサイト運用の効率化や全体最適だけでなく、ユーザー体験をどう高めていけるかにフォーカスして取り組みを加速させていきたいです。ファーストパーティデータを収集して適切なセグメントができれば、CRMだけでなくペイドサーチやメディアなどの精度も高められます。こういったデジタルエコシステムを守安さんの部署とも協力しながらブランドごと、カテゴリーごとに作り上げ、しっかりと回していけるようにしたいです。
守安 ファーストパーティデータという、お客様からお預かりしている大切な情報をお互い利益享受できる形で活用するには、AIなどの新しい技術も取り入れなければなりません。チャレンジしながら、お客様にさらに喜んでもらえるブランド体験を提供していきたいです。社内のエキスパート人材を増やしてネスレ日本をより良い組織にするためにも、成功事例の積み重ねと発信をセットで行っていこうと思っています。
━━本日は、貴重なお話をありがとうございました!