他社事例より“あるスポーツ”から行動のスタンスを学ぼう
井澤 相談に乗っていると、ほとんどの方が成功の秘訣を知りたがりますが、うまくいっているビジネスを紐解くと、どのケースも「試行回数の多さ」に行き着くと思っています。失敗している数も多いから成功するんですよ。スタートアップでもピボットしてから伸びたケースは多々ありますが、「しくじり先生」のような話はなかなか世に出回りません。
本谷 他社の事例を知るよりも、本来は「3C」への理解を深めるべきだと思うんです。「己(Company/自社)を知り、敵(Competitor/競合)を知り、顧客(Customer)やマーケットを知る」。今はこれにチャネルが加わって「4C」ともいわれています。「ECグロース分析」は、こうした理解と分析をより科学的に実現できるようにと考えて形にしました。
井澤 現代のECビジネスって、サッカーみたいなものだと思います。自分のポジションを忠実に守っていれば点を獲ったり守ったり一定の役割を果たせる野球と違い、サッカーは試合中に流れを見て自身の動き方を変えたり、監督がプレーヤーにポジション変更を命じたりしなければなりません。意思決定がスピーディーに行われないと勝てないので、統制よりも現場に一定の自由度を与える必要があるんですよね。コマースメディアでもEC事業をいくつか手がけていますが、広告予算のチャネル別の振り分けなど臨機応変な判断が求められる分野は担当者に権限を移譲し、事後報告としています。
ただ、こうした座組は担当者のスキルセットへの理解がないと実現できません。なので、やはり外の事例だけではなく自社の理解が必要になるよねという話になるのですが。

ECグロースを後押しする経営者の仕事は何なのか
本谷 そもそも「3C」が理解できていない中で専門家にコンサルティングを依頼しても、うまくいかないんですよ。自社の理解と目指す先がずれていたら、正しい相談もできません。
井澤 「都合の良いデータしか見ない・信じない症候群」も問題だなと思います。たとえば、明らかに改善をしないといけない数値が出ても、「人の解釈」が入ることで改善を見送ったり、元々の方針に沿った行動をしたりといったことも多いです。
本谷 良いデータしか見ないと足元をすくわれますね。「こうすればうまくいったから」といった過去の栄光やバイアスは、捨てないといけないフェーズに来ていると思います。
井澤 最初の話に戻りますが、「アフターアフターコロナ」の時代ですからね。プレーヤーが大きく変わっています。OEMなどでこれまでものづくりをしていなかった企業も容易に参入できますし、海外からもすぐにものを売れる時代です。
本谷 客観視する習慣がないと、こうした新規プレーヤーの存在を見逃してしまいます。厳しい状況に追いやられる前に次の手を打てるよう、頭の使い方を変えなければなりません。
井澤 新規参入で市場からライバル視されていないうちは、「ひたすら頑張る」でも悪くはないと思うんですよ。ただ、存在を知られた後にどれだけ速く動いて経験や成果を積めるかが大事で、それを楽しんでやれないとこれからのEC業界で生きていくのは辛いかもしれません。私は、RPGゲームみたいだなと思って楽しめるタイプですが。
━━ゲームでも、倒せない敵が現れたら新たな武器を手に入れたり、トレーニングを積んでから戦いを挑んだり、アプローチを変えますからね。
井澤 ゲームは、レベルなどで客観視されているからわかりやすいですよね。そのままの自分では太刀打ちできないことが明白なので、何かしらの対策を皆さんするはずです。ブランドやECサイトの運営も同じで、基本的に不動ではだめなんですよ。
ただ、経営者には「待つ」という時間も必要です。タイムリミットは設けつつも、現場が頑張って動いている間はその動向を見守る。その裏で予算の采配やより大きな判断など、自身の立場でないとできないアクションを起こしていく。そうやってECグロースに取り組んでいただけたらと思います。