「ロイヤル化の王道ルート」も過信しすぎない アマノフーズの成長戦略とは
前出のコラボ企画のように、時には斬新な発想を取り入れ挑戦できるのも、長年の通販事業の蓄積があってこそといえるだろう。しかし、こうしたヒット企画や広告配信などで新たな出会いを生んでも、1回購入した顧客に2回・3回と購入してもらえなければ焼畑農業のようになってしまう。ロイヤル顧客を生み出す秘訣はどこにあるのだろうか。
「お客様の買い方は時代によって変化していますが、こうした移り変わりに目を向けた上で『LTVが向上しやすいカスタマージャーニー』もいくつか見えてきました。会員優待制度『アマノメンバーズクラブ』は、お客様に良い体験を提供しながらこうした王道ルートに乗っていただきやすくなるような設計を施しています」

しかし、中村氏は「すべてのお客様のグレードをむやみに上げようとしているわけではない」と強調。自社ECだけでなく、モールや小売、卸など多様なチャネルを有するからこそ、ファーストパーティデータだけですべてを判断しようとせず、「バスケット分析やチャネルをまたいだ購買行動の把握といった、厳密な計測がまだ難しい部分にも目を向け洞察し、仮説立案・実行していく必要がある」と続けた。
「アマノメンバーズクラブでも、一人ひとりの動きを見ると同一会員ステータスで括って良いのか悩むほど、ロイヤル度にグラデーションがあるように感じています。
設計上、わかりやすいように『年間ご購入金額』をステータス分けの指標としていますが、たとえば『年間1万円の購入なのでレギュラー会員だが、アマノフーズ公式通販歴10年』というお客様と、『初年度に2万円購入してシルバー会員になったが、2年目は5,000円購入でレギュラー会員、3年目に離脱』というお客様だと、前者のほうがアマノフーズにとって大事にしたいお客様であるはずです。しかし、現状のメンバーズクラブの設計だと前者のお客様にはレギュラー会員特典しか還元できておらず、顧客評価として正しいのだろうかと悩むこともあります。
他にも、『アマノフーズ公式通販ではレギュラー会員だが、スーパーマーケットなどで商品を購入するヘビーユーザー』といったお客様もいらっしゃるはずです。こうした自社で設けたステータスだけに縛られすぎると、本質を見落としかねないので気をつけなければならないと日頃から言い聞かせています。鉄板ストーリーに誘導するだけでなく、お客様の多様な買い方を尊重しながら、今後も施策を磨いていきたいです」
EC黎明期ともいえる時代から自社ECを構え、売上成長を遂げてきたアマノフーズ。最後に、中村氏へ今後この売り場をどうしていきたいか聞いたところ、次のような答えが返ってきた。
「ECサイトでものを買う体験がどんどん一般化している以上、当社のEC事業もずっと成長期であり続けなければならないと考えています。
現在のアマノフーズ公式通販サイトは2016年から同じカートを活用しており、UI/UXの改善も課題の一つではありますが、大手モールのようにワンクリックで購入できるECサイトが世の中の最適解とも限りません。同時に、単体のメーカーが巨大プラットフォームに個性なしで勝てるわけがないとも思っているので、むしろ違う土俵で勝負したほうが良いのではと思っているほどです。
当社としては、過剰すぎず簡素すぎない情報発信・提供と、メルマガや広告など自社EC外の各接点からお客様が流入した際の心地良さや距離感といった『ちょうど良いコミュニケーション』の塩梅を常々探っています。今後もお客様の多様性を理解しながら『指名買いしてもらえるECサイト』であり続けられるよう、良質なコミュニケーションと様々な取り組みを実践していきます」