越境ECの現在地は「啓発期」
現在、訪日外国人数がV字回復しています。これには、円安も大きく影響していると見られており、今後もしばらくの間は、今の状況が続くでしょう。このトレンドは、越境ECにとって追い風です。そこで、越境ECの現在地を確認してみたいと思います。
次の図は、米国の調査会社・ガートナー社が提唱したハイプ・サイクルという、新しいテクノロジーやビジネスがどう歩んでいくか、その過程を表したものです。ハイプ・サイクルは、期待度の高まりと時間の経過の2軸で表現されており、多くのトレンドがこの曲線に沿うとされています。
越境ECが日本で注目されはじめたのは、訪日中国人による爆買いが話題となった2015年頃だと私は見ています。以降、多くの企業が越境ECを実施しましたが(過度な期待のピーク期)、成功に至らなかった事例も多くあり、トレンドは鎮静化したように見受けられました(幻滅期)。
そして、コロナ禍を経て改めて越境ECに注目が集まり、最近はその支援企業による中身の濃い情報発信が増えてきている印象を受けます。ハイプ・サイクルにしたがえば、現在越境ECは緩やかな上昇機運に乗っている状態であり、これから先、安定期に向かうものと予想できます。
円安と訪日外国人増加だけが越境ECに注目する理由なのか
近年、越境ECへの注目が増している背景には、歴史的な円安、それにともなう訪日外国人の増加が挙げられます。インバウンドビジネスを展開する企業にとっては、嬉しい限りです。そして、その流れは越境ECに対する関心や期待へとつながっています。訪日時に気に入った商品を、帰国後に越境ECで購入してもらうといったように、帰国後の消費者ニーズの受け皿になってほしいと願う企業は多いのではないでしょうか。
しかし、私は少し立ち止まって客観的な状況を理解する必要があると思っています。円安と訪日外国人の増加が、越境ECの追い風になっていることは間違いありません。ただし、もし為替が円高に転じたとしたらどうでしょうか。そして、それによって訪日外国人が急に減少したら、企業は越境ECへの関心を失っても良いのでしょうか。
私は、こうした外的要因に左右されることなく、越境ECが恒久的な施策になってほしいと願っています。次のページでは、なぜ日本企業にとって越境ECは重要なのか、データを交えながら説明します。