働き手が減ると、消費の担い手も減る
もう一つ、気になるデータを紹介します。次のグラフは、国内の生産年齢人口(15~64歳)に関する政府機関の予測データです。2024年は7,350万人ですが、2044年には5,824万人にまで減少すると示されています。これからの20年間で、生産年齢人口が20.8%減ることになるのです。
生産年齢人口が減るということは、働き手が減るのと同時に消費の担い手も減るということです。働き手の減少に関しては、実店舗の人材確保が難しくなる可能性が高まる点で、EC業界にとってはある意味プラスに作用するかもしれません。
しかし、消費の担い手が減ると、個人消費の総額も減ってしまいます。このことからも、日本の小売市場規模の拡大には、なかなか期待しづらいといえます。
まずは自社がもつ越境ECの課題の解像度を上げる
今後伸び悩むだろうと予測できる日本の個人消費。そんな中、越境ECで諸外国の個人消費を取り込むことが、日本企業にとって重要なポイントだと私は考えています。とはいえ、そう簡単な話ではないことは、いうまでもありません。
そこで、越境ECにはどのような課題があるのかチェックしてみましょう。次のグラフは、ジェトロ(日本貿易振興機構)が発表しているアンケート調査の結果です。全体の数値とは別に、大企業と中小企業に分かれて数値が公表されているため、それらも併せてグラフ化してみました。
全体値を見ると、課題として最も多く挙げられているのは「販売国・地域に関する情報不足」55.5%であり、特に中小企業は57.6%と高い値になっています。2位以降は「自社ブランド認知度向上の難しさ」46.0%、「物流や通関、関税支払、返品にかかるリスク」43.7%、「ECサイト構築や販売促進への対応」42.6%、「規制対応や商品開発」39.4%となっています。
これらの課題を見ると、国内ECと共通するものもありますが、越境EC特有の課題も混じっているとわかります。つまり、国内ECの延長線上で越境ECを捉えれば良いわけではないといえるでしょう。
越境ECに関する課題は、上のグラフで書かれていること以外にも存在します。例を挙げると、越境ECには「直送モデル」と「一般貿易モデル」の二つのビジネスモデルがあります。前者は日本に在庫を保有し、受注後に日本から国際宅配するスタイル、後者は相手国にあらかじめ商材を輸出し、相手国のECプラットフォームなどを経由して当該国から発送するスタイルです。どのビジネスモデルを選択するかは、重要なテーマとなります。
私の経験上、多岐にわたる越境ECの課題について、面倒でも一つひとつの解像度を上げることが重要だと思っています。課題を表面的、抽象的に捉えると、解決策が中途半端になってしまうリスクがあります。
たとえば、上述の二つのビジネスモデルはさらに細分化できますが、自社に適した手法はどれか、細かく検討しなければなりません。ほかにも「販売国・地域に関する情報不足」を細分化すると、市場規模、人口構成、消費者の好み、商習慣、EC化率、対応すべき法制度、物流状況、好まれる決済方法、人気のあるECプラットフォーム、競合他社製品の存在など、多くの項目が見えてきます。このように、丁寧に課題の解像度を上げることが、成功への入り口となるはずです。