業界の非常識はビジネスチャンス 「あえて、」が推進した三つの改革
リリース後、「あえて、」のメニュー数は徐々に増えており、2024年9月時点で30種類を超える。多様なメニューを開発できた理由について、金澤氏はこう語る。
「『あえて、』をリリースできた要素は大きく二つあります。一つは運営体制です。社内で既存事業とは別の枠組みとして進める仕組みが整っていました。そのため、通常の業務フローにとらわれず、試作品づくりなどが自由に実施できた点は大きかったです。
また、二つ目に社内メンバーや外部パートナーの協力があります。当グループは新規事業を立ち上げる際も自社で取り組む傾向が強いですが、今回は他社とも協業し冷凍食品の商品開発における専門性が高いメンバーを特別にアサインしました。これにより、比較的速いスピードでメニューを拡充できたと思います」(金澤氏)
当初、外部パートナーからは「技術的な難易度が高い」と反対されたというが、羽藤氏は「業界での“非常識”は見方を変えるとチャンスになる」と話す。
「事前調査でお客様のニーズがわかっていたため、可能性はあると確信していました。冷凍食品の専門家ではない分、従来と異なる自由な発想が新規事業を立ち上げる上で生きたと思います」(羽藤氏)
加えて「エコシステム」「ビジネスモデル」「デジタルマーケティング」の三つの変革が、「あえて、」のリリースを後押ししたという。まず「エコシステム」では、商品開発だけでなくECサイトの仕組みづくりなども自社だけでは不十分だと認め、スタートアップ企業との協力体制を構築。また、大量生産型の「ビジネスモデル」から、多様なニーズに応える考え方へシフトした。通常1ブランドあたり1~2種類の商品を開発するところ、「あえて、」では立ち上げ時より20種類用意している。そして「デジタルマーケティング」においては、新規事業だけを独立させず、グループの共通ID「AJINOMOTO ID」などとの連携を進めているという。
こうした「あえて、」の取り組みは、味の素グループにとって新たなチャレンジに見える。しかし、羽藤氏は「当グループが創業時より行ってきたこと」と強調。最後にグループ全体で重視する考え方と今後の展望を語り、セッションを終えた。
「味の素グループは、創業者の鈴木三郎助氏が『うま味』を発見した池田菊苗氏と出会い、協力して事業化を推進したことから始まりました。『あえて、』の立ち上げも、そんな当グループのDNAを受け継いでいます。今後も社内外のパートナーを巻き込みながら、食と健康のソリューションサービスを提供していきたいです」(羽藤氏)