大量生産からの脱却 1対1の顧客インタビューでわかった差別化要素
味の素グループが「フード&ウェルネス」領域で目指すのは、「食と健康のソリューションサービス」の提供だ。これには、食品だけでなく、献立の悩みを解決するサービスや食事・運動・睡眠といった健康的な生活の実現に向けた支援も含まれる。「あえて、」はその第1ステップだ。
「便利なアプリやサービスは多くありますが、たとえ献立をレコメンドされても、そのとおりに食事するのは難しいものです。そこで、『あえて、』は美味しくて栄養バランスが良く、誰でも容易に食生活を改善できる“お手本”を提供しています。食品製造以外のサービスにまで事業領域を拡大すると、将来的に既存のプラットフォーマーとも競争しなければなりません。そのため当グループは、食品メーカーとしてものづくりを軸に提供する価値の幅を拡げ、差別化を図っています」(羽藤氏)
立ち上げ背景を紹介すると、羽藤氏は商品開発の裏側に話を進めた。「あえて、」の可能性を探るため、顧客と1対1のインタビューを実施したという。羽藤氏は、定性調査を重視した理由を「『あえて、』は2030年を見据えた未来志向の新規事業。現時点で可視化されたデータでは、ニーズを把握するのに不十分だった」と振り返る。
「お客様へのインタビューを通じて、様々な発見がありました。宅配冷食弁当を活用している人は多いものの、そのほとんどはおかずのみのタイプで、主食はお客様自身で準備しているケースが大半だったのです。つまり、まだ削減できる手間が残っているといえるでしょう。そこで『あえて、』は、味が付いた混ぜご飯を採用し、利便性とともに付加価値の高いサービスを提供しています」(羽藤氏)
一方、主にメニュー開発などを手掛けた味の素冷凍食品株式会社の金澤氏は、羽藤氏のアイデアを初めて聞いた際「実現は難しいのではないかと感じた」と語る。
「当社は、人気商品である『ギョーザ』のような特定品種の大量生産は得意なものの、少量多品種に対応した前例があまりありませんでした。とはいえ、今後は一定規模の市場が複数誕生する“スモールマス”の時代に変化すると予想できます。難しい反面、おもしろいチャレンジだと感じました」(金澤氏)
試作品づくりに向けて、羽藤氏と金澤氏が活用したのが既に稼働していた炒飯などの業務用商品だ。味が付いたご飯を迅速に準備できると考えた。しかし、羽藤氏は「美味しそうな商品は生まれなかった」と話す。
「様々な商品を展開する当グループの強みを生かして、いち早く市場に参入しようとしましたが、そんなに容易ではありませんでした。考えを改め、良いサービスにするために譲れないポイントを押さえながら、試行錯誤を重ねたどり着いたのが、現在の『あえて、』です」(羽藤氏)