ブランドが蓄積した“らしさ”をAIは言語化できるのか
藤井(ビービット) ブランド体験や価値を高めるためのAI活用も、方法論としては存在すると思います。実際に、現時点でAIを使ってやってみたいことはありますか?
鈴木(ニューバランスジャパン) 「AIでやろう」を起点に考えてはいませんが、たとえばフィッティングや接客が上手な販売員の技術をデータ化して、汎用性のあるヒアリングボットのようなものを作る、といったことができるのであればやってみたいですね。接客技術は、教育を施しても属人化する要素がどうしても出てしまいます。その人の考え方や気をつけていることを機械学習にかけてパターン化できれば、実現可能なのではないかと考えています。
また、ブランドを形成する感覚的な要素、俗にいう「っぽい」ものを言語化、パターン化して学習させれば「ニューバランスっぽいワードやビジュアル」を提案してくれる、といったことも、きっと実現できますよね。これらをAIが適切に抽出できるのであれば、米国・ボストンのファクトリーツアーが「希少性ある体験」として支持される理由をAIに聞いて、その一部を疑似体験できる場を日本にも作れるかもしれません。
藤井(ビービット) 音や匂いなど、ブランド体験のコアな要素でありながらも表層に出てきづらいものを言語化し、できるものは再現する。そうすれば、より多くの人がブランドの本質に触れられるようになりますね。
鈴木(ニューバランスジャパン) ただ、今はまだ人間が思考して発見した要素にフォーカスしていても良いと思っています。たとえば、アウトドアブランドの「Snow Peak」は、キャンプギアをビジネスに取り入れるキャンピングオフィス事業や住環境にまつわる事業を展開していますが、そこには「人には本能的に野生の感覚がある」といった考えがあるそうです。つまり、アウトドアの本質を考えれば、オフィスや家の中でも野生を呼び覚ませるのではないか。こうした人間による仮説のもとに進められているのでしょう。
藤井(ビービット) 確かに、人間(顧客)やブランド価値への理解があれば、あえてAIを使わずとも鍵となる要素を見つけ、フォーカスすることは可能ですね。
鈴木(ニューバランスジャパン) 逆に、米国・ニューヨークで日本の甘いいちごの栽培に成功したOishi Farmは、データを使い「受粉」にまつわる変数を一つずつ読み解いた結果、今のビジネスの構築に成功したそうです。変数が多いと、人間だけで本質に迫るのは難しいですが、AIが「最も大切な要素」を見つけ出す手助けをしてくれれば、スピードをもって多くの顧客に良い体験を提供できるようになります。AIにはそういった点に期待したいです。