滞留在庫の発生を防ぐ「前方倉庫」「後方倉庫」の使い分け
FBAを通じて得られるメリットは、Amazon プライムマークの取得によるSEO効果だけではない。受注後の自動出荷や購入者へのカスタマーサービス、返品対応など、バックヤード業務の支援を受けられる点は、特にリソースが不足するEC事業者にとって魅力的に映るだろう。
なお、楽天市場も物流業務を委託できる仕組み「RSL(楽天スーパーロジスティクス)」を提供しているが、いずれも利便性を提供する一方で、活用には様々なハードルが存在するのも事実だ。
「FBAやRSLの専用倉庫は保管料が比較的高いため、注文が入らず在庫が滞留すると、コストがかさみEC事業者の大きな負担となります。長期にわたって在庫が滞留している場合や、出荷数に対して在庫が多すぎる、もしくは少なすぎる場合には、追加料金が発生するケースもあります。1度入庫した商品は流通加工やセット売りができない、委託先のモール内でしか商品販売ができず、在庫一元化が難しいといった制約が存在するのも課題だといえます」
そのため、海外からフルコンテナで商品を仕入れている場合は、直接FBAの専用倉庫へ送ることはできず、中間倉庫でコンテナから商品を1度降ろして、トラックでFBAに入庫するための積替作業が発生する。同作業を回避するには、混載貨物として小分けで輸入しなければならない。
「FBAとRSLの活用はメリットもありますが、全在庫を無計画に入庫すると物流コストがふくれ上がります。EC事業者にとって、コストメリットが得られるかどうかの判断が難しいのです」
では、どうすればAmazonや楽天市場で成果につながる物流体制が構築できるのか。寺岡氏は「倉庫の戦略的な使い分けが欠かせない」と強調する。
「倉庫は、全国のお客様の近くに位置し、すぐに商品を届けられる『前方倉庫』と、在庫を保管し状況に応じて加工する『後方倉庫』の大きく2種類に分けられます。FBAやRSLの専用倉庫は前方倉庫と捉えられるでしょう。売上成長と前方倉庫のコスト削減を両立するには、後方倉庫を上手に活用する必要があります。在庫は基本的に後方倉庫に入庫し、売れ行きを見ながら、滞留在庫と欠品どちらも発生しない最小限の数を前方倉庫へ配送する。こうした仕組みを作れば、最小限の負担で済みます」
コストを削減した分、顧客に還元できるメリットもある。質の高い物流によって、迅速かつ安価に商品を提供できるため、顧客満足度の向上にもつながるだろう。結果的に、顧客の購買意欲が高まり、自社の売上成長に寄与する。
こうした好循環を実現すべく、ACROSSは2024年6月に新サービス「サンゴー便」の提供を開始した。寺岡氏は、同サービスの特徴を次のように説明する。
「サンゴー便では、当社が奈良県と神奈川県に保有する合計1万坪の倉庫を後方倉庫と位置付け、FBAやRSLの専用倉庫に商品を配送できます。140サイズであれば1箱350円という低価格で輸送できるため、サンゴー便と名付けました。当社の倉庫はフルコンテナ入庫に対応しているため、港からFBAの専用倉庫へ商品を運ぶための中間倉庫としても活用可能です」
地場の運送会社とのネットワークにより、業界最安値水準を実現したサンゴー便は、EC事業者にとって配送コスト削減と戦略的な倉庫の使い分け双方をかなえる有効な手段だといえるだろう。
「保管料がFBAとRSLの3分の1程度である当社の倉庫に在庫を保管しておき、FBAやRSLの専用倉庫には注文が入りそうな数量のみを都度サンゴー便で配送することで、コストが削減できます。FBAやRSLの倉庫にある在庫が少なくなったら、再びサンゴー便を活用して低価格で入庫可能です。売れ行きを見ながら、こまめに在庫を補充できます。また、FBAやRSLの倉庫への配送だけではなく、場合に応じて、自社から直接お客様へ届けるBtoC配送や小売店などへ納品するBtoB配送にも活用可能となっています。Amazonや楽天市場以外のEC販路、オフライン販路にも柔軟に対応できる点も魅力の一つです」