前回の記事はこちら
そもそもMinimalのビジネスモデルはD2Cなのか?
「Direct to Consumer」の略であるD2C。私は「主に自社ECサイト上で、お客様とコミュニケーションを取りながら、自社商品を直接販売するビジネスモデル」と定義しています。従来の直販との違いは、テクノロジーという強力な要素が加わっている点でしょう。
現代はインターネットとスマートフォンの普及により、世界中の情報に、いつでもどこでも瞬時にアクセス可能となりました。これによりEC販売が容易になったことが、D2Cの浸透を加速させたといえます。加えて、SNSを通じた直接的なコミュニケーションの実現が、D2Cを強力なビジネスモデルに変えました。
「100億円×1事業」より「10億円×10事業」が可能性を持つ時代
D2Cが勃興した背景には、テクノロジーの進化があるとお伝えしました。ここで見逃してはならないのが、個人の多様な価値観が表出したことです。
テクノロジーの進化は、情報の非対称性をなくしていきました。それ以前は、声の大きい一部の個人やメディアの影響力が大きく、ある意味で偏った情報のみが流通していました。しかし、誰でも膨大な情報に等しくアクセスできる世界になり、消費における価値観の多様性が、目に見えるようになったのです。
この事実は、ビジネスにどのような影響を与えると思いますか。
情報の非対称性が目立っていた時代は、情報を掌握できた企業が圧倒的なパワーを持ち、事業を大きく成長させていました。一方で、現在は大きな成功ではなく、多様な価値観に対応した小さな成功が多く見られます。これまで認知されていなかったニッチなニーズが可視化され、ビジネスチャンスが無限に広がりました。
たとえば小売の場合、以前は1事業で100億円の売上を作るケースが珍しくありませんでした。それが今では、10億円の売上が期待できる事業を10個生み出すほうが、成長の可能性を感じます。
その反面、売上がある一定で止まるスモールビジネスと化する課題もあります。多くのD2Cが大きく事業拡大できないのは、これが理由でしょう。この問題をどう乗り越えていくかが経営上のハードルであり、私自身のMinimalにおける挑戦でもあります。
LTVを高める2つの要素
Minimalを創業した10年前には、D2Cという言葉はありませんでした(厳密にいうとあったのかもしれませんが、私は知りませんでした)。立ち上げ時の私の自覚としては、Minimalを製造小売型(SPA型)ブランドビジネスと定義していました。今考えても、D2Cのビジネスモデルを内包してはいるものの、研究・開発・製造機能を持つ点で、一般的なD2Cとは大きく異なります。
それでも、Minimalの事例は、D2Cブランドが事業を拡大する際に持つべき機能のヒントになると思います。
ビジネス手法としてのD2Cに、私はとても前向きな考えを持っています。D2Cの本質を、ロイヤリティが高いお客様を生み出すブランドビジネスと捉えているからです。多様化する個人の価値観にあった商品やサービスを、お客様と直接コミュニケーションを取りながら届ける。これからの時代に求められるビジネス手法です。
一方で、前述したように、多様化する個人の価値観に合わせた事業は、市場規模が狭くなります。どのニーズに向き合うのか。市場選択が肝心という大前提を、きちんと押さえておくべきです。
「選択した市場でロイヤリティを高める」というD2Cの本質は、「お客様を獲得してそのLTVを高める」といい換えられます。それを踏まえると、D2Cで事業を拡大、成長させるドライバー(価値の源泉)は、体験開発とコミュニケーションではないでしょうか。