現場の意見が反映されるボトムアップな企業文化
1973年に大阪で誕生したパルは、「3COINS」「CIAOPANIC TYPY」など、アパレルや雑貨カテゴリーで50以上のブランドを展開している。2024年3月時点で927店の実店舗を運営すると同時に、オンラインチャネルを通じた売上も成長。2016年度に自社ECサイトの運営内製化、オムニチャネル体制構築への取り組みを本格化すると、翌年度にはEC売上100億円を達成した。2023年度は、500億円に達する見込みとなっている。
パルの多様なブランドを生み出しているのは、外部から登用したディレクターではなく、主に現場で接客対応する販売スタッフたちだ。その背景には、同社に根付く企業文化がある。
「当社は、自主性や自発性に重きを置いています。各社員に業務の裁量があり、働き方や成果に応じて評価する制度が整っているのです」
社員の自主性・自発性に加えて、“変化への対応力”がパルのもう一つの強みだ。ファッションの流行を先読みし、新ブランドの立ち上げや既存ブランドへの投資の強化を判断しながら、事業を拡大してきた。
こうした「ボトムアップ型の経営方針」「機敏に時流を捉える力」は、特に同社の接客に生きている。販売スタッフ自身が、顧客のニーズや流行の動きを察知。オフライン・オンラインを問わず、一人ひとりに合わせたOne to Oneのコミュニケーションを行っている。
等身大の情報発信が顧客の共感を引き出す
昨今は、情報収集の手段が多様化し、あらゆるコンテンツがあふれている。そんな中、消費者の情報の受け取り方も変化してきた。堀田氏は、現代の消費者の傾向をこう分析する。
「スマートフォンが普及する以前は、主にプレス活動と称してファッション雑誌などに情報を提供し、発信してもらう仕組みが主流でした。一方通行でより多くの人に同じ情報を届ける、いわゆる『マスプロモーション』です。しかし、スマートフォンが広く普及した現代では、口コミのような情報が大量に生み出され、消費者が双方向で情報をやり取りするようになっています」
これにともない、消費者が求める情報は「憧れ」「理想像」から「共感」に変わりつつある。
「アパレルであれば、以前はスタイルの良いモデルを起用し、消費者の憧れを表現するケースが多く見られました。しかし、自分が共感できる情報を見つけやすくなった今、親しみをもてる販売スタッフとのコミュニケーションが好まれる傾向にあります」
こうした時代の変化に合わせて、企業も発信方法を工夫しなければならない。たとえば、パルは全社的にSNS活用を推進している。堀田氏は「SNS上のコミュニケーションでお客様の共感を引き出すことで、『いいね』などのエンゲージメントスコアが高まり、また別のお客様に情報が拡散されていく。この循環を生み出せるかがポイント」と語る。
パルでは、特に実店舗で接客を行う販売スタッフによるSNS投稿が活発だ。現在、個人のSNSアカウントを保有する販売スタッフは約1,800人、そのうち約260人が1万人以上のフォロワーを抱えている。さらに、全社員のSNS総フォロワー数は約1,500万人にのぼる。
「特定の選ばれた人だけが情報発信するのではなく、多様な販売スタッフがそれぞれの個性を発揮してお客様とコミュニケーションを取っています」