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刻一刻と変わる越境EC動向 可能性はどこにある?
コロナ禍の間は、入出国制限により失われたインバウンド需要を取り込むため、円安進行以降は、日本製品に対する海外からの購買意欲上昇のチャンスを逃さないため、そして現在は回復したインバウンドとのタッチポイントを増やし、継続的な購入につなげたいといった意向から、越境ECの導入企業は継続的に増加しています。これらは、近年のEC化率上昇にも確実に寄与していると言えます。
こうした背景から、関連サービスを提供する企業も増加し、手軽に越境ECを始められる環境が整いつつあります。容易な導入や環境構築が可能になった背景には、EC構築サービスと越境ECサービスの連携が様々なところで進んできたことも挙げられるでしょう。
今回は、日本国内のEC事業者を多数支援してきた株式会社フューチャーショップの安原貴之氏に話を聞きました。ECプラットフォームを提供する立場から見たコロナ禍以降のEC市場動向や、越境ECの可能性についてお伝えします。
生活様式の変化で食品業界にもECでの商機が到来
本間(BeeCruise) フューチャーショップ様は数多くの日本のEC事業者を支援していますが、越境ECについて話を聞く前に、現在どんな事業者に多く利用されているのか教えてください。
安原(フューチャーショップ) 「futureshop」は現在約2,900店舗が利用していますが、基本的には総合通販系で、中でもアイテム数やSKU数が多い事業者に使っていただくことが多いですね。一番多いのはアパレルで、次に多いのが食品系です。
以前から食品を取り扱う事業者は多かったのですが、コロナ禍以前は「オンラインで食品を買う」という文化が根付いていなかったこともあり、売上が伸び悩む事業者もいらっしゃいました。しかし、コロナ禍の生活様式の変化により、オンライン経由でのスイーツお取り寄せなどが浸透し、食品系ECの流通額が上がったのをきっかけに、ブランディングに取り組む事業者が増えてきた印象です。
本間(BeeCruise) 図を見ると、「食品、飲料、酒類」のEC化率の上昇幅は微増ですが、市場規模が大きいだけに可能性は広がりますよね。コロナ禍で増えたEC需要は、リアル回帰によってやや鈍化している印象もありますが、一方で新しい生活様式として定着した部分もあることがわかります。
安原(フューチャーショップ) 先ほどブランディングについて触れましたが、スマートフォンの普及やSNSの浸透により、オンライン上の接点は事業者にとっても非常に重要なものとなっています。eコマースは、販売チャネルでありながら大事な顧客接点の一つでもあるため、ブランドとして「自社ECサイトを持ちたい」とfutureshopにお声がけいただく機会も増えました。
ただ、ECサイトは「売り場」なので、販売を強化しようとすると、顧客接点としてのブランドの表現がやりづらくなるケースもあります。たとえば、「この位置に写真を入れたい」「ここにはボタンをつけたくない」と思っても、デザインの制約によって難しかったりといった具合です。その点、futureshopはデザイン自由度が非常に高い、特許を取得している仕組みがあるため、ブランドが行いたい表現を実現しやすくなっています。
本間(BeeCruise) ECサイトに求められる役割は増えていますが、購買とブランディングを同じ場で両立させるのは難しさもありますよね。機能やサービスを開発する上で、心がけていることはありますか?
安原(フューチャーショップ) 当社では事業者に自走してもらうことを目指し、サポートに力を入れています。電話サポートの応答率は90%超で、EC運営のちょっとした不具合をすぐに聞けるようにしていますし、コンサルティングサービスやEC運営に必要な情報を習得できるセミナーも提供しています。
プロダクトにもこの思想を反映していて、ちょっとした改善はエンジニアでないEC担当者でもできるようにしています。自ら手を動かしやすい環境を提供すれば、事業者の継続的な成長につながると考えてのことです。そのため、分析機能を提供して数字を見られるようにするなどといった機能拡張にも取り組んでいます。