ECサイトを閲覧し、購入は実店舗で行う「SBEV」
まず天田氏は、尻江氏に「アーバンリサーチにおける重要顧客の定義」を質問。それに対し、尻江氏はこう説明した。
「以前から、1ユーザーあたりの平均売上金額(ARPU:Average Revenue Per User)を重視していました。特に重要顧客として注目していたのが、実店舗とECサイトの両方で購入する『クロスユースユーザー』です。クロスユースユーザーのARPUは、他のユーザーと比較して2倍〜3倍高いことがわかっていました」(尻江氏)
クロスユースユーザーの特性を深く理解するため、アーバンリサーチはプレイドに協力を依頼。2社は「顧客探索プロジェクト」として、クロスユースユーザーを含む顧客の実態を定量的に分析した。そこで発見されたのが、新たな重要顧客「SBEV(Shop Buy EC Visit)」だ。
SBEVに分類されるユーザーは、実店舗で購入するにも関わらず、ECサイトの閲覧を頻繁に行っている。
尻江氏は、「SBEVという新たな顧客像が見えたことで、ECコンテンツの企画内容や、チームの働き方の見直しにつながった」と振り返る。
以前は、EC上でのトランザクションを目標にコンテンツを作っていたアーバンリサーチ。データ分析後は、SBEVの存在を意識したコンテンツ作りに変わりつつあるという。
本プロジェクトでは、顧客データ・行動データなど社内外に点在するデータが統合できる「KARTE DataHub」を活用した。
「アーバンリサーチさんの実店舗の購買データとECサイトの行動データをユーザー軸で紐付けました。それにより、今まで気づかなかった顧客の存在に気づいたのです」(天田氏)
「購入前」から「購入後」までが顧客接点
SBEVの行動を理解するために、本プロジェクトでは2つのアプローチを行った。
1つ目が、店舗スタッフへのインタビュー。実店舗のスタッフの中でも特に人気の高い「URBAN RESEARCH DOORS COCOSA熊本店」のスタッフにインタビューを実施した。
その上で2つ目のアプローチとしてn1観察を行い、SBEVの行動、EC来訪タイミング、閲覧ページなどを解析した。
まず行われたスタッフインタビューでは、3つのSBEVの特徴が明らかになった。
ECサイトで見たスタイリングを実店舗で確認する
ECサイトで見たスタイリングが、実際に自分に合うサイズなのか、色味は相違ないかなどを実店舗で確認する。
店内で購入予定のなかった商品を見つけて購入する
ECサイトで確認した商品の購入を目的に実店舗へ来店するが、その場で出会った商品を購入することもある。これには、スタッフによる接客が大きな役割を果たしている。
SBEVに分類されるユーザーが増加傾向にある
SBEVは、来店前に何かしらのウェブサイトを確認しているケースが多い。「i LUMINE(アイルミネ)」や「WEAR」など、アーバンリサーチが提供するプラットフォーム以外でもスタイリングが投稿されていることが一因と推測される。
この結果を受け、n1観察は、実店舗とEC行動を顧客軸で分析できる「OMOダッシュボード」とKARTE「ユーザーストーリー」を使って進められた。OMOダッシュボードで、実店舗の購買データとECサイトの閲覧データをユーザー単位で把握。ユーザーストーリーで、購買タイミングや回数などユーザー行動の詳細を見ていった。
そこで得られた11の発見のうち、本セッションでは1・5・11が解説された。
自分軸でレーベルを横断したい
これまでアーバンリサーチでは、ブランドやレーベルごとに違うターゲット像を描いていた。しかし、n1観察により顧客は気分に合わせて異なるブランドやレーベルを選ぶことが明らかになった。
商品企画時のターゲット像と実際のユーザー行動が一致しないケースは少なくない。そのため、「属性」のターゲティングから「状況」のターゲティングへと考え方を変える必要があるといえる。
「たとえば、30代の母親というターゲット像を作り上げても、実際には状況によって着たい洋服が違います。同じ母親でも、子どもと公園で遊ぶときに着たい服と、学生時代からの女友達と外食するときに着たい服は異なるはずです。ブランドやレーベルの垣根にとらわれすぎないほうが良いでしょう」(天田氏)
特集で気持ちを盛り上げたい
ECサイトの特集ページも、ユーザーの購買意欲を喚起。顧客を実店舗での購入へ導く役割を果たしている。
「1ヵ月前から2つの商品に興味を持ち、それぞれのスタイリングを何度も確認している男性ユーザーがいました。最終的には、前日に閲覧した特集ページが後押しとなり、2つのうち1つの商品に購入を決めているようでした」(尻江氏)
アーバンリサーチでは、PV数やECサイトでの購入数を特集記事の評価軸にしていたという。今回の分析結果により、特集記事がECサイトだけでなく実店舗でのユーザーの行動にも影響を与えているとわかった。
購入品のスタイリングが見たい
購入品のスタイリングの確認、あるいはサイズの再確認を目的に、商品購入後もECサイトを訪れるユーザーの存在が判明した。
商品を起点として、購入前から購入後まで顧客接点は継続している。尻江氏は、「スタイリングを充実させ、ECサイトに戻ってきたいと思うユーザーを増やすことが重要」だと話す。
今後アーバンリサーチでは、「マイページ」をユーザーのクローゼットとして次回購入の起点としていくなど、アイデアを深めていく考えだ。
顧客分析には「チームワーク」も寄与
新たなユーザーの行動を発見できた顧客探索プロジェクトだが、その進行では、チームや課を超えて、多種多様なメンバーが参加したという。この点も、本プロジェクトが成果を出せた理由だろう。
「アーバンリサーチでは、CX向上施策は決して1つの課・チームだけで完結しないと考えています。部署から部署へバトンを渡していくイメージで、カスタマージャーニーを描いているのです。広告、プレス、販売、CRMなど、様々な部署からプロジェクトメンバーが集まったことで、部署同士のコミュニケーションも深まりました」(尻江氏)
プロジェクトチームのチームワーク強化には、プレイドの「協業スタンス」が貢献した。プレイドが一方的に提案するのではなく、ワークショップ型で進行。双方向で意見を出し合ったそう。
それもあってか、各メンバーがデータ活用やKARTEの仕組みを理解。「改善施策などを検討する際の、議論の解像度が向上した」と尻江氏は話す。以前は「KARTEでポップアップを出せるか」という相談だったのが、「こんな行動を取ったお客様に、特定のページで、このようなメッセージを伝えたい。ベストな訴求方法は何だろうか」のように具体的になった。
「顧客理解は、課や部の垣根を超える唯一にして最強の共通言語です。アーバンリサーチさんは今回のプロジェクトをきっかけに、顧客理解という共通言語を持ちつつあるのではないでしょうか」(天田氏)
本プロジェクトを振り返り、最後は天田氏と尻江氏のそれぞれが「ECの意義とは何か、ECは誰のものなのか」という問いに言及。セッションを締めくくった。
「アーバンリサーチでは『ECサイトはお客様のもの』と考えています。EC運営の中では、『ECサイトはブランドのものか、デジタル部門のものか』といった議論も生まれがちです。しかし当社は、必ずしもECサイトで決済する必要はありませんし、ECサイトをスタイリングカタログとして活用していただいても良いと考えています。我々が取り組むべきは、それぞれのお客様が必要とするコンテンツを充実させていくことに尽きます」(尻江氏)
「ECサイトは単なるElectric Commerce(電子商取引)ではありません。これからのECサイトは、Emotional Connection(顧客とつながる場)になるべきです」(天田氏)
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