アメリカでは既に7兆円市場 ビジネスの貢献度にも期待
小売企業とメーカー向けにリテールメディアプラットフォームを提供するD&Sソリューションズで共同CEOを務め、実践リテールDX研究会の運営にも携わる望月氏は、セッション冒頭でリテールメディアの定義を次のように述べた。
「リテールメディアは小売企業が運営する自社メディアや、企業活動で収集したデータを用いて運用するネットワーク広告など、デジタル面で展開する新たな顧客接点を指します。ただウェブサイトやアプリに広告面を設け、コンテンツや広告を直貼りするのではなく、システムを活用して『配信管理』ができること、小売企業の本部から一括で配信や停止ができ、レポートを出せることが『リテールメディア』と呼べる必須条件です。任意ではありますが、小売企業の会員情報(ID-POS)との連携もできる状態が、より望ましいです」(望月氏)
リテールメディアの配信場所は、小売企業が運営するECサイトやネットスーパーを含むウェブサイトやアプリ、店内のデジタルサイネージ、情報配信が可能なタブレットつきレジカートに加え、YouTubeなど小売企業が自社メディア外で行う広告配信も該当する。
アメリカでは、こうしたリテールメディア市場が既に7兆円規模にまで成長し、デジタル広告費全体の18%を占めるまでになっている。たとえば、Walmartでは2021年の広告事業の売上高が前年比約2倍の21億ドル(2,940億円)を記録。この数字は、全体売上の0.5%と売上構成比上は小さく見えるが、営業利益の5.4%を占め、貢献度と今後の拡大については高い期待が寄せられている。
リテールメディアの効果は一過性ではない
ここで望月氏は、日本におけるリテールメディアの現状について「街に人が戻り始めた2022年後半からメディアで特集が組まれるなど注目を浴びつつある」と説明した。株式会社CARTA HOLDINGSの調査によると、2026年に日本のリテールメディア広告市場規模は805億円に成長すると予測されている。店頭サイネージやタブレットをレジカートに搭載する株式会社トライアルカンパニーや、アプリでの展開に力を入れる株式会社セブン-イレブン・ジャパンなど、既にリテールメディアに本腰を入れる企業も登場している。
「当社が小売企業向けに提供するリテールメディアプラットフォームも、スーパーマーケットに特化したVertical SaaSとして展開し、サービス提供開始から2年半で小売企業約20社に活用いただいています。同プラットフォームでは、小売企業各社の自社メディアを束ねる『リテールメディアネットワーク』やデジタルチラシのフォーマット、LINEミニアプリなどを提供し、管理画面から広告の配信設定・管理が可能です。各社が自社開発なしでスムーズにリテールメディアを開設できる環境を構築しています」(望月氏)
リテールメディアのメリットについて、望月氏は「店頭ではパッケージ訴求がメインとなり、POPも情報掲載スペースが小さい。チラシはどうしても価格訴求が主になりがちだが、デジタルではコンテンツなどあらゆる角度から商品の価値や良さが訴求できる」と説明。さらに、スーパーマーケットチェーン「いなげや」の自社メディア内で配信した広告の成果を解説した。
「当事例は、雪印メグミルクが販売する『MBPドリンク』の良さをマンガで訴求したものです。該当記事を見たお客様の対象商品購入率は、全世代平均で1,890%向上、年代別に見ると最大で2,628%向上しました。こうお伝えすると『効果は一過性なのでは』と思われるかもしれませんが、配信前後の日別販売個数を見ると、実施前と比べてベースが200%にまで増加しています。記事で認知を高め、全体の販売個数をボトムアップできているといえるでしょう」(望月氏)