ページの「どこ」を顧客が読んでいるのか
ヤッホーブルーイングが活用する「User Insight」は、ウェブサイトに関する数値分析やヒートマップ分析、SEO分析、入力フォーム分析などの機能がある総合アクセス解析ツール。本セッションで紹介されたのは、数ある機能の中でもヒートマップ分析とSEO分析の活用事例だ。
ヒートマップ分析は、ページを閲覧したユーザーがページのどの部分を読んで、何をクリックしたかといった行動を、視覚的・直感的に把握できる機能。「どの部分まで表示したか」「熟読した箇所」「クリックが多い箇所」を色分けして表示する。
SEO分析は、「Google Search Console」との連携によって、サイトへの流入状況を把握できる機能。期間ごとの変化分析や、検索キーワードの組み合わせ分析、検索結果の上位ページとの比較などが可能だ。嶋田氏は、「どこを改善すべきなのかを検討する際の材料が発見できる」とその特徴を紹介した。
トップページの効果を高めた“小さな実験”
ヤッホーブルーイングは、BtoCのチャネルとしてeコマースを重視しているという。
「1997年の創業時、当社は地ビールブームに乗って成長しました。しかし、ブームの終焉とともに売上が右肩下がりになり、実店舗でも取り扱ってもらえなくなりました。そこで、eコマースでの販売を始めたところ、売上がV字回復していったのです。EC運営に注力することは、会社の成長エンジンにつながると考えています」(桂馬氏)
同社が運営する公式通販サイト「よなよなの里」では、約10種類の製品に加えて、初心者向けの「クラフトビールはじめてセット」やギフトセット、オリジナルグラスなどを販売している。同ストアでは以前からPVやUU、直帰率、滞在時間などは分析していたものの、閲覧範囲やよく読まれる内容など、顧客の動きをつかむ細かい分析ができないことが課題だった。
そこでヤッホーブルーイングが導入したのが、User Insightだ。桂馬氏は、User Insightを活用した取り組みを3つ紹介した。
最初の取り組みは、User Insightを使った「小さな実験」によってサイトを改善してみること。実際にPDCAを回すことで「データ活用による改善」を社内に浸透させる狙いがある。
具体例がトップページの改善だ。従来は「製品一覧」を最上部に配置し、その下に季節限定セットなどの「おすすめ商品」が表示されていた。これに関して、同社内では「今買ってほしい『おすすめ商品』を最上部に配置するべき」と「いろいろなビールを知ってもらうために『製品一覧』を上に配置しておくべき」の2つで意見が割れていた。
そこで、同社では試験的に配置を入れ替えて分析。ヒートマップを見比べると、「おすすめ商品」を上に配置したページでは、ユーザーの閲覧範囲が広がっていた。また、上部に配置した「おすすめ商品」のクリック数が増え、下部に変更した「製品一覧」のクリック数はあまり減っていなかった。
「配置を入れ替えたことで、『製品一覧』のクリック数を減らすことなく、『おすすめ商品』への動線を強化できました。効果的な打ち手として社内でも納得感が高まり、成果の良いほうを採用できました」(桂馬氏)
「決めきれない」人に向けた情報発信
2つ目の取り組みが、クラフトビール定期便サービス「ひらけ!よなよな月の生活」の販売ページの分析とリニューアルだ。
定期便サービスは、ヤッホーブルーイングが今、最も力を入れている事業の一つ。定期的に製品を配送する定額制サービスで、レギュラー製品の他、期間限定や地域限定醸造の製品も販売する。会報誌や会員限定ストア、新作ビールの先行販売などの特典もある。
リニューアル前の同ページのヒートマップでは、その月に配送可能な製品を紹介する「選べるビールはこちら!」というコンテンツを50%以上の人が閲覧し、かつ熟読していた。一方、ページの最下部に配置した、商品を入れる「かご」や料金などの情報は、10%前後しか閲覧されていなかった。
さらに、サイト内を回遊せずに離脱した「直帰」のユーザーに絞って分析すると、お届けビールの紹介が終了する部分での離脱が多いことがわかった。また、リンクが貼られていない画像にクリックの反応が多くあり、詳細な情報が得られると顧客が勘違いしている可能性もあった。
ヤッホーブルーイングでは、これらの分析から得られた気付きを改善に活かした。
「お届けビールの紹介が熟読されていることから、『興味を持っているが決めきれない』人が多いことがわかります。そうした顧客には、料金やお届け頻度などの情報が必要ですが、最下部にあるためほとんど見られていません。大切な情報をもっと上部に配置し、閲覧しやすくすることが改善になります」(桂馬氏)
この分析ではもう一つ大きな気付きがあった。期間限定ビールを紹介するバナーへのクリック数が顕著に多かったことだ。「ビールについて知りたいという顧客の強いニーズがわかった。そのため、各ビールの情報をわかりやすく提示する改善も必要だった」と桂馬氏は話す。
そこで、同社は分析結果を反映し、製品紹介や購入に関する情報のコンテンツを改善。製品紹介では限定製品と定番製品を並べてわかりやすく表示し、画像も大きくした。画像をクリックすると、詳細情報がポップアップで表示される。また、料金やお届けの時期に加えて、コース変更や解約についての情報をページ中盤に配置し、記載内容もわかりやすく変更した。
リニューアル後のヒートマップでは、料金などの情報を掲載している部分が、閲覧比率25~50%の領域に入るようになった。わかりやすい表示にしたことでミスクリックも減ったという。
「定義」を知りたい人への訴求は可能か
最後は、現在取り組んでいるクラフトビール紹介ページの分析だ。これは、クラフトビールの定義などを紹介して新規顧客に興味を持ってもらうためのコンテンツ。「クラフトビールとは」というキーワードのGoogle検索結果でトップになったこともある。
ここでは、冒頭でクラフトビールの定義を説明。次に自社製品を紹介し、その下に各ビールの楽しみ方などが見られるリンクを設置。そして最下部で「はじめてセット」を紹介している。
アクセスや来訪者の属性を分析すると、ほとんどが新規ユーザーで、直帰率は約70%と非常に高い。そして、外部流入による訪問が約90%。検索して情報を得ようとする来訪者が大半ということだ。桂馬氏は「いかに回遊性を高めるか、そして購買に結びつけるかが改善の肝になる」と話す。
ページのヒートマップを見ると、最上部の「定義」のエリアに閲覧や熟読が集中している。また、クラフトビールの種類や原材料などのコンテンツも熟読やクリック数の反応が強い。一方、製品紹介の部分は熟読されておらず、クリックもほとんどない。直帰したユーザーに絞ると、冒頭の定義の部分に熟読反応があるが、同時に離脱も多くなっている。定義を確認してすぐに離脱する人が多いと考えられる。
「定義を確認してすぐにページを離れる顧客に、製品のアピールができるのか。興味を持ってもらえる可能性はあるのか。そんな疑問がありました」(桂馬氏)
そこで活用したのが、Google Search Consoleと連携したキーワードの分析機能だ。この分析によると、「クラフトビール」というキーワードは「通販」や「缶」という言葉と同時に検索されていることがわかった。製品を探している人も多いということだ。
「分析から、『このページと製品紹介の相性は悪くないのではないか』という気付きが得られました。しかし、実際に製品紹介を見てくれる人は10%程度です。改善案としては、画像を増やして詳細な製品紹介コンテンツを作ることや、『はじめてセット』の表示位置を上げることが考えられます」(桂馬氏)
「なんとなく」から「行動・ニーズを把握」へ
セッション終盤で桂馬氏は、User Insightの導入で得られた成果について、「顧客の行動を可視化することで、具体的な改善策を考えられるようになった」と振り返った。
「従来は『なんとなく』の感覚で改善策を検討していましたが、顧客の行動やニーズをベースに検討するように変化してきました。引き続き、ニーズに応える魅力的なサイトを目指し、分析と改善を繰り返していきたいです」(桂馬氏)
このように、User Insightを活用した分析では、ページの「見られ方」が直感的にわかる。それをもとに改善を重ねることで、新規顧客の獲得や顧客体験の向上を図れる。
嶋田氏は最後に「アクセス解析ツールの大きなニュースとして、旧Google Analytics(ユニバーサルアナリティクス)の計測終了があり、実際に当社への相談も増えてきている」と明かした。企業サイトの効果を高めるツールとして、User Insightなどのサービスがさらに重要性を増していくだろう。