オンライン上で捉えるべき顧客の動きとは
ECサイトやアプリなどにおける顧客コミュニケーションを、データを活用しながら支援しているSprocket。同社がオンライン上の顧客体験として意識しているのが、「実店舗同様の接客」だ。
ECサイトでは、目当ての商品や情報が見つからなければ、顧客がそのまま離脱してしまうケースが少なくない。そうした離脱を防ぐため、同社ではECサイトに訪問した顧客の行動をリアルタイムで観察。これにより、たとえば顧客がどこに遷移すべきか迷っている状況を検知した場合には、案内を表示するなどの対応を可能にしている。
「クライアント企業に価値提供ができるベンダーでありたい」と考える深田氏。Sprocketは、そのために独自のA/Bテストをこれまでに7万回実施してきた。
「マーケティング領域のツールは、導入後に使い方を習得し運用を始めた後、効果が出るまでに時間がかかります。そのため、目標ROIにたどり着く前にツールを解約してしまう企業が非常に多いのです。こうした状況に対して当社が運用に入り込みA/Bテストを行うことで、確実に成果につなげるためのノウハウを蓄積しています。実績としても、当社ツールを導入した企業では平均で、ROIが目標値の約2倍となっています」
オンライン上の顧客体験を改善するためにまず手を付けるべきこととして、深田氏は「ページの改善ではなく経路分析」を挙げた。顧客の行動から、「なぜこのページにたどり着いたのか」がわかれば、仮説を立てやすい。また立てた仮説の検証を行うことで、成果を出せるUXへ改善ができる。
「顧客が商品説明ページにたどり着く経路は、広告やメルマガなど様々です。経路によって、商品の購入に対するモチベーションも異なる上、とるべきコミュニケーションも変わります。広告を見た上で購入したい商品が決まっている顧客には、邪魔をせずスムーズな購入に導くコミュニケーションが適切です。一方で、複数の商品で迷っている顧客には、商品の情報を提示していく必要があります。顧客の流入経路を捉えれば、顧客のモチベーションを理解しやすくなるのです」
Sprocketではこうした経路別の顧客に対して、提示するコンテンツの差し替えや、ポップアップの表示といった施策が可能だ。特に、Web接客におけるUIアプローチには効果が見られる。
「ポップアップならデザインを作り込まずにテキストで対応ができるため制作負荷が軽い上に、顧客も『自分に向けてアクションしてくれている』と気づきやすいのがメリットです。
それと同時に、検証データが集めやすいのも強みです。表示したポップアップを顧客が消してしまっても、それ自体が1つのデータになります。仮に毎回ポップアップが消される場合は、顧客にとって邪魔なアプローチになっているということです」
企業が見落とす顧客の離脱ポイント
深田氏は、A/Bテストを繰り返してきたからこそ「顧客は思いがけないところで離脱していることがわかる」と説明する。
ECサイトを運営していれば顧客の離脱はできるだけ減らしたいところだが、データだけでは離脱の理由は読み取りにくいだろう。しかし、施策を実行することで見えてくる顧客の反応がある。深田氏はその例として、生鮮食品を扱うECサイトを挙げた。
「本サイトでは、『ハンバーガーメニュー』のクリック率が平均数%程度と低く、ときには1%を切ることもありました。その理由を検証するため、アイコンの意味を説明する吹き出しを表示してみました。するとクリック数が増え、購入者数も増えたのです。つまり、『アイコンの意味が理解されていなかった可能性が高い』というわけです」
ECサイトでは珍しくないカゴ落ちも、同様の検証を重ねた結果、「ご不明な点はございますか?」という問いかけが効果的だったという。「商品がいつ届くのか」「送料はかかるのか」「会員登録は必要なのか」など、支払いの直前に疑問を持つ顧客もいる。そこでFAQページに移動して内容を確認し、戻ってくるケースは多くない。
「たとえばページの滞在時間が長いなど、『悩んでいる』と予想できる行動をとった顧客に、よくある質問をポップアップとして表示します。その場で疑問を解消してもらうことで、カゴ落ちの削減に成功しました」
またログインエラーも、離脱のきっかけとなる。それに対しても、パスワードを入力してエラーが表示された瞬間にポップアップで解決策を案内すれば、その場で解決できる。こうした顧客の些細なつまずきの解消が、CVRの向上をもたらす。
こうした事例から、ECサイトにおけるセルフサービスの前提はもう成立しないことがわかる。コンテンツを用意していれば、顧客が見てくれるわけではない。ここで再び深田氏は、いくつかの事例を紹介した。
「コーディネートの紹介をしているアパレルのECサイトもありますが、ページの下部にコンテンツを用意しても顧客に気づいてもらえません。そこで、『コーディネートを見てみる』というボタンをクリックすると自動的にスクロールして、コンテンツのある場所までスムーズに誘導する工夫がなされています」
「絞り込み検索も実はあまり使われていない機能です。ここでも、顧客が使っていない機能を提案して、存在をアピールすることができます」
顧客目線で「邪魔にならない」コミュニケーションを
オンライン上での顧客のつまずきは、なぜ起こるのだろうか。深田氏はその理由についても解説してくれた。
「理由は2つあります。1つ目は、普段インターネットを利用しない層が、コロナ禍の影響で利用を始めたことです。これまで利用していなかったため、自ら情報を積極的に調べる行動をあまりしない傾向にあります。
2つ目は、デジタルネイティブの増加です。操作に慣れているが故に、自分ですべて調べなければならないことにストレスを感じてしまいます」
それならば、オンライン上でのアプローチ数を増やせば良いと考える人もいるかもしれないが、必ずしもそうではない。実店舗での接客と同じく、顧客が質問を投げかけるであろうタイミングで提案をしなければならない。すぐに先のページへ遷移しない新規顧客に対して、クイズ形式で商品詳細情報を提示した事例では、購入を決める前の顧客も含めて会員登録率が2.7倍にまで増加したという。
「顧客にチャットを案内するアプローチも有効だった」と深田氏は続ける。顧客の疑問のなかには、チャット経由でスタッフと会話をすれば解決できるものもある。しかし、自分からはチャットツールを立ち上げない顧客がいるのも事実だ。商品を見ているにもかかわらず、カートに入れていない顧客にチャット利用を促すことで、購入の迷いは解消できる。
実店舗で接客をしていれば、顧客に声をかけるタイミングに気を遣うこともあるだろう。顧客が直接見えない場合は、さらにそのハードルが上がる。これまでは必要なアプローチができていなかった可能性があるが、データから顧客の行動を分析できれば、タイミングに合ったコミュニケーションが期待できる。
そのためSprocketでは、マルチステップでのWeb接客を提案している。たとえば、最初は顧客の邪魔にならないよう10秒程度の動画を表示する。その後、「良ければご覧になりませんか?」と許可を得て、商品詳細ページへと誘導。その上で、より詳しい商品紹介動画を視聴してもらう。顧客に許可を得ることで、1分程度の動画でも最後まで見てもらえるようになり、購入の後押しとなるのだ。
「たとえば、顧客の認知・興味がそこまでない新商品でも、性能の良さや魅力を理解してもらえれば購入につながります。これまで、オンライン上で顧客に商品を隅々まで見てもらうことは容易ではありませんでした。しかし、うまく流れを作れば、顧客に気づきを与えることが可能です」
とはいえ、Web接客におけるポップアップは、顧客から邪魔だと受け取られる懸念がやはり残る。なぜ顧客にとって悪い体験になってしまうのか、認識しておくことも必要だろう。深田氏は顧客がポップアップを邪魔だと感じるケースを5つ挙げ、それらが大きく2つの理由に分けられると説明した。
「1つ目は、✕ボタンの押しづらさです。広告などで、ボタンが小さすぎて表示を消せないことがあるでしょう。2つ目は、誤クリックです。こちらも広告で頻繁に見かけますが、ポップアップの表示が大きすぎて、開こうと思っていないのに別ページへ遷移してしまうことがあります。こういった点に注意を払ってWeb接客を取り入れれば、効果的なアプローチとなるでしょう」
ここまで、オンライン上の顧客コミュニケーションについて詳しく解説してきた深田氏。セッションの最後には、Sprocketが行っている支援について紹介。視聴者に対してこう呼びかけた。
「当社は、顧客行動に基づくマーケティングの推進をお手伝いしています。ツールベンダーではありますが、それを運用するリソースやA/Bテストの結果から蓄積したノウハウまで提供できるのが当社の強みです。もちろん、コンテンツの埋め込みやリアルタイムでの顧客データの分析などといった、様々な機能も備わっています」
「コンサルタントがサポートしますので、運用代行も可能ですし、内製化を希望される企業には、知見の提供も行っています。また、どうすればコンバージョン数が上がり、新規顧客をロイヤル化できるのかといったノウハウについても、共有が可能です。 企業と顧客の長期的な関係構築に貢献していきたいと考えていますので、そういった場合にはぜひSprocketを思い出していただけますと幸いです」
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