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ECzine Day 2024 Autumn

2024年8月27日(火)10:00~19:15

おさえておきたいEC・通販先進企業

通販システムと研究力で市場を開拓するファンケルのポテンシャル


 美容と健康に寄り添うファンケルは、通販市場を席巻した知名度の高い企業の一つです。近年は持ち前の研究・企画・販売力と自社EC「ファンケルオンライン」などにおける戦略を融合させた取り組みも見られます。今回は、同社のビジネスモデルやDX戦略について解説します。

 株式会社ファンケルは、強力な発信力を武器にコスメ通販事業で大きな成長を遂げた企業です。近年はEC需要の増加に伴い、独自のデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略を展開しながら、持ち前の研究開発能力の高さを活かし、消費者のニーズ解消と満足度向上に取り組んでいます。

 この記事では、同社の事業における強みや自社EC「ファンケルオンライン」における戦略などを事例とともに詳しく解説します。

株式会社ファンケルの企業情報・事業内容

 まずは、株式会社ファンケルの基本情報について確認しましょう。

株式会社ファンケルの企業情報

 株式会社ファンケルの企業情報は、以下のとおりです。

社名 株式会社ファンケル
本社所在地 神奈川県横浜市中区山下町89-1
設立年月 1981年8月18日
代表者名 代表取締役 社長執行役員 CEO 島田 和幸
株式公開 東証プライム市場上場
資本金 107億9,500万円
おもなグループ会社

株式会社アテニア

株式会社ネオエフ

株式会社ファンケルラボ など

株式会社ファンケルの事業内容

 株式会社ファンケルは「美」と「健康」の領域を中心に、世の中の「不」を解消するというミッションの達成を目指す企業です。

 化粧品事業や肌着事業を中心とした「美」の領域、そしてサプリ事業や発芽米事業、青汁事業、健康経営推進事業を中心とする「健康」の領域を両立させることで、消費者の課題解決に取り組んでいます。

株式会社ファンケルの沿革

 株式会社ファンケルの歩みはおもに以下のとおりです。

年月 沿革
1980年4月

池森賢二が化粧品販売を個人創業

化粧品通信販売開始

1981年8月 ジャパンファインケミカル販売株式会社(現 株式会社ファンケル)設立
1984年4月 ファンケル美容研究所を子会社化し、化粧品の自社生産体制を確立
1992年2月

郵便受けに投函できるポストサイズの配送箱を導入

商品(無添加基礎化粧品Bタイプなど)にも順次薄型のポストサイズを導入

1994年2月 サプリメント28品目の通信販売開始
1996年10月 香港に「ファンケルハウス」1号店出店
1996年12月

インターネットサイトオープン

ネット受注開始

1999年12月 東証一部上場
2002年10月 ファンケルグループの製造を担い、生産部門の管理・統括をする株式会社ファンケル美健設立
2012年3月 新たなコーポレートロゴおよびファンケル化粧品事業のブランドステートメント「Nothing but Beauty」制定
2019年8月 キリンホールディングス株式会社と資本業務提携契約締結

 1980年に創業した同社は当初から通信販売に注力しており、1984年には研究・生産機能を確立し、1996年には早くもECを開始するなど、先見性の高さがうかがえます。

 サプリ展開や肌着、化粧品事業も段階的に参入した結果、現在はキリンホールディングス株式会社との資本業務提携を結び、依然として通販を主体としたサービスの提供を継続しています。

株式会社ファンケルの強みや特徴

 株式会社ファンケルは、自社が持つ研究開発と販売のノウハウを活かして、強力なビジネスモデルやトレンドをおさえたECビジネスを確立してきました。同社を成功に導いた要因について見ていきましょう。

ビジネスモデル

 株式会社ファンケルのビジネスモデルの特徴は、自社独自の「製販一貫体制」を実現していることです。

 自社で研究・企画・製造した商品を自社の多様なチャネルで販売することにより、顧客のフィードバックやニーズを的確に反映し、より良い製品作りを実現する、強力なPDCAサイクルを備えています。

 また近年は、顧客ニーズに応じてパーソナライズされたサプリメントの販売などにもこのビジネスモデルを応用し、高い評価を集めています。効果的なD2Cビジネスの構図を描くことで、無駄が少なく顧客満足度の高い、高収益の事業展開を実現しました。

事業の強み

 長らく通販事業を営んできたファンケル株式会社では、EC需要獲得に向けた先進的な施策も展開中です。

 たとえばEC需要拡大に備え、自社EC「ファンケルオンライン」の拡充はもちろん、Amazonや楽天モールといった外部ECも有効活用し、顧客との接点の多様化を推進しています。その結果、2020年度販売実績における通信販売の比率は、店頭販売や卸売販売などのチャネルを抑え、全体の約50%となりました。

 また同社は、独自開発したIT基幹システム「FIT(FANCL Information Technology)2」によるオンライン・オフラインの顧客データの一元化にも取り組みました。これによって各チャネルの相互走客を実現し、マルチチャネルの強みを効果的に発揮させることに成功しています。

 さらに、通販と店舗の強みを融合させた「ファンケルらしいOMO」を推進し、最適な製品を最適なタイミングで顧客に提案することで、顧客にとっての体験価値の最大化を実現しています。

 具体的には、ITを活用したパーソナルメイクレッスンやライブコマースを通じて、オンラインでの顧客との接点確保に努めるほか、専用アプリ「FANCLメンバーズアプリ」では肌タイプがわかるAIパーソナル肌分析なども行っています。

株式会社ファンケルの近年の大きな取り組み

 デジタル技術の導入に積極的なファンケル株式会社は、社内のDX推進や最新AI技術の導入といったハイテク活用にも取り組み、一定の成果を上げています。

コロナ禍での増益をもたらした自前DXの取り組み

 新型コロナウイルスの感染拡大は、あらゆる業界に大きな打撃を与えましたが、株式会社ファンケルはそんなコロナ禍においても増益を実現しています。

 増益の大きな力となったのが、同社が2014年から進めてきたDXの推進です。2020年5月、これまでは購買履歴の記録や分析用だった公式アプリに通販機能を追加しました。それにより、売上高の伸び率は4月の約20%を超え、早期に成果を発揮しました。

 また、外部に委託していた保守業務も自社対応に切り替え、社内におけるブラックボックス化を解消したことで、マーケティングのためのシステム改修にかかるコストと時間を減らすことにも成功しています。

AIモデル開発で角層解析をさらに高度に

 ファンケル株式会社では、AIの活用を積極的に推進しています。

 東芝デジタルソリューションズ株式会社のアナリティクスAI「SATLYS(サトリス)」を採用した「AIパーソナル角層解析」がその一例で、同サービスでは、有償提供サービス「角層バイオマーカーカウンセリング」を、無償で気軽に受けられるよう自動化しました。角層バイオマーカーカウンセリングでは、従来の肌測定では実現できなかった、肌内部のダメージや将来的な肌トラブルを可視化できます。

 両社が共同開発したことにより、AIを使って無料で提供できるようになっただけでなく、クラウドサービスとして全ての直営店舗で検査を受けることも可能になりました。

肌着事業の強化に向けてカタログを刷新

 2022年9月、ファンケル株式会社はフェムケアニーズの高まりに応えるべく、中価格帯(3,000円~5,000円)の肌着市場開拓にも着手しました。雑貨と肌着のカタログを10月号から統合することで、生活の各シーンに合わせたライフスタイル全般の提案を促進し、顧客の幅広い買い回りを促進しています。

 これまでは50代女性の既存顧客をおもなターゲットとしていた肌着事業ですが、今後は30〜40代の化粧品販売などで接点を得ている新規顧客にもアプローチを進め、ニーズの見極めと定番化を進めるとのことです。

目を通しておきたい株式会社ファンケルのトピックス

 その他、株式会社ファンケルの気になるトピックスについて以下にまとめておきます。

2024年6月18日:ファンケル、キリンHDの完全子会社に 公開買付け・手続き後に株式上場廃止を予定

 ファンケルは2024年6月14日の取締役会で、キリンホールディングスによる同社の普通株式および新株予約権に対する公開買付けに賛同し、自社株主に対して応募を推奨すると発表。

2024年3月29日:ファンケル、店舗スタッフ退職者のアルムナイ制度を実施 短時間勤務者の働きやすい環境整備強化も

 ファンケルは、店舗スタッフ退職者のアルムナイ(退職者)採用制度「ファンケルカムバック採用」の強化を発表。退職者とネットワークを構築するために、同社と退職者の専用グループSNSを作り、会社情報や採用情報などを定期的に配信するほか、退職者専用の応募ルートを新設。即戦力人材の確保につなげている。

2023年12月15日:ファンケル、送り主名をニックネームにもすることが可能な「ファンケルeギフト」サービス開始

 ファンケルは2023年11月より、相手の住所や氏名が分からなくてもオンライン上でファンケル製品をプレゼントできる「ファンケルeギフト」を開始。

2023年10月30日:ファンケル、初の「移動型店舗」を豊洲と曳舟エリアへ期間限定で出店 顧客との新たな接点創出へ

 ファンケルは、2023年11月3日から2023年11月5日まで豊洲公園に、2023年11月16日、17日の2日間はイトーヨーカドー曳舟店に「移動型店舗」を期間限定で出店。豊洲公園では洗顔泡立て体験など、イトーヨーカドー曳舟店では専用機器を使った「血管年齢測定」などの体験が提供された。

2023年2月9日:資源回収プログラム「FANCL リサイクルプログラム」、容器回収を全国の直営店舗に拡大

 ファンケルは、独自の資源回収プログラム「FANCL リサイクルプログラム」の実施を、3月末までに全国にある183店の直営店舗のうち一部の店舗を除く174店に拡大する。

2023年1月26日:ファンケル総合研究所がウェブサイト「note」で公式アカウントを1月26日(木)に開設

 ファンケルグループの研究開発をすべて担っている総合研究所「ファンケル総合研究所(所在・神奈川県横浜市 所長:若山和正)」は、1月26日(木)から、ウェブサイト「note」で公式アカウントを開設しました。

2022年12月15日:【ファンケル✖キリン】ビール製造時の副産物から化粧品包材を開発

 ファンケルは、キリンホールディングスとの間で、2019年の資本業務提携を基に、今回、環境保護に関する取り組みの一環として、キリンのパッケージイノベーション研究所と共同で、「キリン一番搾り生ビール」の製造工程で発生する副産物であるビール仕込粕から抽出したヘミセルロースを用いた植物由来の化粧品包材を開発した。

2022年11月29日:ファンケルが化粧品事業のブランドパーパスを再設定

 ファンケルは、ここ数年のブランドイメージ希薄化の理由を分析し、新たに「ブランドパーパス」を設定した。

2022年11月8日:「体力」を見える化する技術を開発 酸素飽和度測定による世界初の技術、幅広い応用に期待

 ファンケルは、個人の「体力」を見える化する指標として、酸素飽和度(以下「SpO2」)を用いた「酸素飽和度性作業閾値(SpO2 Threshold/ST)」を利用し、「無酸素性作業閾値(Anaerobic Threshold/AT)」を簡便に推定する方法を開発した。

2022年10月31日:【ファンケル×キリン】ファンケル・キリン・慶應義塾大学の共同研究でAI技術を用いた新たな洗浄剤開発プロセスを検討

 ファンケルは、同社が蓄積した実験データをもとに、キリンの機械学習技術と慶應義塾大学の分子シミュレーション技術を組み合わせることで、洗浄剤のメイクを落とす性能を、コンピューターの高い精度でスピーディーに予測ができるシステム構築の可能性を発見した。

2022年10月12日:人と地域と想いをつなぐ、ファンケルの新たな取り組み「おいしいものがたり」が始動

 ファンケルは10月20日(木)から、品質にこだわった「おいしいもの」を、生産者のストーリーと一緒に提供する取り組み「おいしいものがたり」を開始した。

2022年9月29日:ファンケル、日本最大級の顧客満足度調査で顧客満足第1位を獲得

 ファンケルは、日本生産性本部 サービス産業生産性協議会が実施した2022年度JCSI調査の通信販売業種のうち「自社ブランド型」(4企業・ブランド)において、顧客満足第1位の評価を獲得した。

2022年8月30日:ファンケル、増益

2022年8月23日:ファンケル、フリーズドライ製法ドッグフードの効果を研究 犬の疾病発生リスク低減に期待できると示唆

 ファンケルは、犬の健康を追求した総合栄養食ドッグフードの自社開発に初めて取り組むなかで、フリーズドライ製法のドッグフードは、①犬の健康維持に重要であるタンパク質の消化率が極めて高いこと、②未消化のタンパク質由来となる糞便中のアンモニアを低減すること、を確認したと発表した。

2022年1月4日:ファンケル、化粧品の9割を再生容器に 23年3月めど

 ファンケルは加工が難しい特殊な形の容器以外で再生ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を導入し、2023年3月までに化粧品の9割を再生容器に切り替えることを発表した。

まとめ

 創業より通信販売形態に重きを置く株式会社ファンケルは、現在も売上の大部分を通販事業から創出している企業です。最近では事業のマルチチャネル化を進め、店舗販売とオンライン販売を融合させながら、既存顧客・新規顧客を問わず満足度の向上に努めています。

 また、早期からECを展開してきた同社は、EC戦略やデジタル活用に対する積極的な姿勢も顕著です。自社ECとECモールを使い分けながら商品を展開したり、社内DXによる社内の業務効率化を実現したりしています。AI技術の開発や現場への導入などを積極的に進めることで、コロナ禍でも増益を実現するなど、確かな成果を挙げている企業といえるでしょう。

 今後も創業以来培ってきた自社研究開発の土壌を活かし、D2Cブランドとしての地位を盤石にしていくことが期待されています。

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この記事の著者

EC研究所(イーシーケンキュウジョ)

ECについての情報を調べ、まとめてお届けします。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://eczine.jp/article/detail/12013 2024/07/08 15:18

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