カメラ店大手の「カメラのキタムラ」を運営する株式会社キタムラは、スマホの普及により需要が低下したことで、一時期は大きな経営危機を迎えていたものの、今ではすっかり組織の再生に成功しています。
同社が経営の立て直しを図る上で、特に注力したのが独自のDX戦略であり、その中にはECと実店舗を併用するオムニチャネル施策も含まれています。この記事では、そんなキタムラがどのようなDX施策を経て事業の復活に成功したのか、解説します。
株式会社キタムラの企業情報・事業内容の概要
まずは株式会社キタムラの基本的な企業情報について、まとめて紹介します。
株式会社キタムラの企業情報
以下の表は、株式会社キタムラの企業情報をまとめたものです。
社名 | 株式会社キタムラ |
---|---|
本社所在地 | 東京都新宿区西新宿6-16-6 新宿タツミビル |
設立年月 | 1943年5月 |
代表者名 | 代表取締役会長 武田 宣 |
株式公開 | 非上場 |
資本金 | 1億円 |
おもなグループ会社 |
など |
株式会社キタムラの事業内容
株式会社キタムラは、株式会社キタムラ・ホールディングス傘下にある、カメラ専門店の「カメラのキタムラ」の運営を主な事業とする会社です。
同社のカメラ関連事業は幅広く、プリントサービスや新品・中古カメラの販売、記念日スタジオ「スタジオマリオ」の運営、さらにはカメラの修理サポート技術を活かしたApple製品の修理サービス「アップル製品サービス」の提供も行っています。
株式会社キタムラの沿革
以下の表は、株式会社キタムラの沿革を簡単にまとめたものです。
年月 | 沿革 |
---|---|
1934年3月 | 高知県高知市堺町(現在のカメラのキタムラ堺町店)に「キタムラ写真機店」として創業 |
1970年4月 | 商号を株式会社キタムラに変更 |
1993年3月 | こども写真館の「スタジオマリオ」事業部を開設 |
1999年7月 | デジタルカメラの拡大に伴い、「デジタルミニラボ」の導入を開始 |
2006年10月 | カメラのキタムラにTポイントを導入 |
2012年2月 | Apple正規サービスプロバイダ認定を取得しAppleサービス事業を開始 |
2016年10月 | 台湾に子会社「創星影像股份有限公司」を設立 |
2019年4月 | キタムラ・ホールディングスグループによる新経営体制の発足 |
2020年7月 | 新宿に旗艦店となる「新宿 北村写真機店」をオープン |
株式会社キタムラの歴史は古く、創業は戦前の1934年にまでさかのぼります。1970年に入って株式会社として生まれ変わった同社は、カメラの輸入販売やプリントアウトなど、カメラや写真に関する多くのサービスを手掛け、顧客を獲得してきました。
スマホ需要の高まりに伴い、2012年にはApple関連製品の修理サービスを開始し、変化するニーズへの対応を進めてきました。2016年に台湾で子会社を設立し、グローバル拠点を巻き込んだビジネスを展開しながら、2019年にホールディングス化を完了し「カメラのキタムラ」運営事業はホールディングス傘下の株式会社キタムラが担う形で継続しています。
株式会社キタムラの再生と成長を支えるDX戦略
株式会社キタムラは創業から100年近くが経とうとしている老舗のカメラ用品企業ですが、スマホの普及などによりカメラの需要が以前よりも小さくなったことで、一時は経営不振に陥った時期もありました。
ただ、2010年代後半より同社はV字回復を果たし、黒字化と4期連続の増益を、リストラすることなく成し遂げたという驚異的な再生を果たしています。このような再生を実現した背景には、同社がドメイン領域のシフトとDXを急速に進めたことにあります。両取り組みが相互に関連し功を奏しました。
同社が取り組んだDX施策と、以前より強みとしているオムニチャネル戦略のアップデートの過程について、ここでは解説します。
利益成長を支えたDXとマルチタスクの実践
株式会社キタムラが利益成長を遂げた理由には、まず同社がプリントサービスや新品カメラ販売を主軸としていた従来のビジネスモデルから転換し、新しいドメイン領域である「リユース」「スタジオ」「思い出サービス」の3つへシフトしたことが挙げられます。
中古カメラの販売や写真館の運営、デジタルアーカイブ化といったサービスは、いずれも粗利率が高く、主力事業としてのポテンシャルを備えたものです。これらのサービスをDXにより効率化させ品質向上を推進したことで、顧客満足度改善や客単価の向上に成功し、同社の売り上げの回復に大きく寄与しました。
DXを進める上で、同社が取り組んだのが思い切った組織改革です。これまではバラバラの部門だったEC、デジタルマーケティング、そして情報システム部門を1つの組織に統合し、スピーディーに必要な施策を進められる体制へと移行できました。
もう一つ、株式会社キタムラが利益拡大のために取り組んだ施策として、マルチタスクが挙げられます。これは「カメラのキタムラ」と「スタジオマリオ」の併設店舗において、現場スタッフが複数の業務を同時にこなせる仕組みです。
スタジオマリオは単価こそ高いものの、利用ニーズは主に土日に集中しているため、平日にサービスを提供することは決して多くありません。そこで平日はカメラのキタムラでの業務に徹してもらい、土日など需要の高い日や予約のある日だけスタジオを開けるという効率的な仕組みを構築しました。顧客のニーズに応じて人員を配置するスマートな店舗運営ができるようになったのです。
EC関与比率56%を達成したオムニチャネル戦略とは
実店舗のイメージが強いカメラのキタムラですが、実は株式会社キタムラは日本でも比較的早い時期からオムニチャネル戦略を採用してきました。
同社は2000年よりEC事業を展開していますが、2007年には全国に存在する実店舗と連携したオムニチャネルによるサービス提供を行っています。ECサイト上で店舗受け取りを設定でき、商品、個数、受け取り可能店舗などの詳細な設定もできることから、多くのファンの確保につながりました。
近年はオムニチャネルを、単に付加価値をもたらすサービスとしてではなく、ECと実店舗の両方の需要を満たす主力の戦略と位置付けています。商品を顧客に渡した店舗に売り上げを付与する仕組みを採用して、本来ECに関わることがなかった店舗スタッフに動機づけを行い、サービスの普及と品質向上につなげました。
店頭・ECを問わない安定したサービス提供は、顧客の中で確実に高い評価につながっており、2020年のネット販売実績ランキングでは16位を獲得しました。この流通規模はヤマダ電機と肩を並べておりニトリをしのぐ成果です。
株式会社キタムラの最近の動き
ここで、株式会社キタムラにまつわる、注目したい近年の動向を解説します。
LINE活用により1年で友だち登録数が約2倍、注文数を約122%に伸長
株式会社キタムラは、公式LINEアカウントを使った集客施策で一定の成果を収め、注文数の向上に成功しています。
LINEでのユーザー獲得は多くの場合広告によって行いますが、同社が取り組んだのは店舗スタッフによる利用促進の呼びかけです。
同社が提供するLINEの注文ボットを活用した写真印刷サービス「写真のお部屋」を店頭スタッフが訪問客へ積極的に紹介することで、施策開始から1年間で友だち登録者がおよそ2倍に増えました。
また、「写真のお部屋」における不要なサービスをそぎ落とし、注文動線を簡略化するというUI/UXの改善を進めた結果、注文数が122%も増加したということです。
不正注文検知サービス「O-PLUX」を導入
2023年4月、株式会社キタムラは自社ECサイトにおいて不正注文検知サービスの「O-PLUX」導入を発表しました。
このサービスは、クレジットカードの不正利用による注文被害を回避するための機能を備えており、希少性の高い商品を扱うECサイトではbotによる注文などを回避するために役立てられています。
同社ECサイトのカメラのキタムラも例外ではなく、単価の高いカメラの転売などを回避するべく、同システムを実装しました。O-PLUXの利用企業同士でブラックリストを共有し、効率よくセキュリティ対策を実施することで、広い範囲の悪質利用者からサイトを防御することができます。
中古時計専門のECサイト「中古時計専門店」を開設
2023年2月、株式会社キタムラは新規事業の一環として中古時計専門のECサイト「中古時計専門店」をオープンしました。同サービスではブランド時計を購入できるほか、中古品の買い取りにも対応し、時計全般の取引に関するサービスを任せられます。
カメラのキタムラでも中古腕時計の取り扱いは多く、「ロレックス」や「オメガ」といったブランド品を、ブランド名や価格、状態、文字盤カラーなどから検索可能です。
購入した商品は宅配または最寄りのカメラのキタムラの時計取扱店舗で受け取れるオムニチャネルとなっており、店舗で実物を確認してから購入することもできます。
株式会社キタムラの気になるトピックス
その他、株式会社キタムラの気になるトピックスをまとめています。
2023年6月1日:カメラのキタムラ サスティナブルな新商品「リサイクル素材でつくったフォトスタンド」を発売
株式会社キタムラは、全国に展開するカメラのキタムラの一部店舗で、“思い出も思いやりも一緒にかざろう”をコンセプトに製作したサスティナブルな新商品「リサイクル素材でつくったフォトスタンド」を発売。
2023年5月26日:カメラのキタムラ 新宿 北村写真機店にて中古カメラ・レンズの「MAXプライス買取」サービスを開始
株式会社キタムラは、カメラのキタムラ 新宿 北村写真機店にて直送買取を開始し、対象商品のカメラやレンズを完動品なら高価定額で買取りする「MAXプライス買取」サービスを開始した。
2023年4月5日:カメラのキタムラが不正注文検知サービス「O-PLUX」を導入
株式会社キタムラは、インターネット取引における安全なインフラ作りに貢献するかっこ株式会社が提供する不正注文検知サービス「O-PLUX(オープラックス)」を導入した。
2023年3月3日:好きなドレスを選んでセルフで気軽にウェディングフォトを撮れる「PICmii DREESY ROOM YOKOHAMAスタジオ」が3月3日(金)オープン セルフ写真館PICmiiがPLACOLE & DRESSYと協業する新店舗
株式会社キタムラが運営するセルフ写真館「PICmii」は、冒険社プラコレと協業し、JR横浜駅直結 JR横浜タワー21階 DRESSY ROOM内に、セルフ写真館「PICmii DREESY ROOM YOKOHAMAスタジオ」をオープンする。
2023年1月30日:カメラのキタムラ 最短1時間仕上げのお名前シール『ぺたねーむEXPRESS』に新メニューと宅配サービスを追加 頑張るママ・パパの入園・入学準備を応援!
株式会社キタムラは、全国のカメラのキタムラで受付けしている、子育て世代に向けたお名前シール「ぺたねーむEXPRESS」に衣類タグ用(ノンアイロン)の新メニューと宅配サービスを追加する。
まとめ
この記事では、カメラのキタムラでお馴染みの株式会社キタムラの概要やDX戦略について解説しました。早期からオムニチャネルを実践するなどの先進的な取り組みを続けてきた同社は、経営危機に陥っても時代のニーズへ対応し、会社の建て直しに成功しています。
DXを進めるにあたり、意思決定を素早く行えるための組織作りを進めたり、時代に合わせた専門領域を迅速にシフトしたりしているのを見ると、その成長力の高さにもうなずけるものがあります。
カメラ関連サービスを多く手掛け、既存サービスの改善にも余念がない同社は、今後も時代に即した業務転換を行いつつ、自社の強みを損なわない絶妙なバランス感覚を維持していくでしょう。