時間や場所にとらわれないオンライン空間で、体験向上を目指したテクノロジーの進化が加速している。メタバースはその本丸とも言え、注目する事業者も多いのではないだろうか。2021年3月よりVRアプリ「REV WORLDS(レヴ ワールズ)」の提供を開始した株式会社三越伊勢丹は、同アプリ内に仮想伊勢丹新宿店を構えるだけでなく、さまざまな事業者やタレント、コンテンツなどと手を組み、仮想空間上にエンターテインメントを提供し続けている。なぜ百貨店がこのような場作りを行っているのか、新しい顧客体験構築に向けて事業を推進する同社で営業本部 オンラインストアグループ デジタル事業運営部 レヴワールズ マネージャーを務める仲田朝彦さんに話を聞いた。
実現性を証明するため独学でCGを勉強
接客が好きで、2008年に伊勢丹(現 三越伊勢丹)に入社した仲田さん。伊勢丹新宿店メンズ館で働きながら個人的にIT関連の情報を得る中で、Google ストリートビューの日本でのサービス提供開始やiPhoneの登場に心躍り、「オンライン上に『バーチャル伊勢丹』を建てたい」という夢を抱いたと言う。
「私が入社した頃は、バーチャルな世界への期待が高まりつつあった時期でした。一方で小売業に目を向けると、リーマン・ショックを契機に環境はより厳しくなるばかり。そこで『今、百貨店が抱えている課題をバーチャルで解決できないだろうか』と考えるようになりました」
人とのふれあいから「顧客」が生まれる実感を日々得ながらも、いち消費者としてECの伸長や利便性を感じていた仲田さん。しかし、「店舗とECの価値の違いや棲み分けかたに違和感を覚えていた」と続ける。
「ECは負を減らす点に目が向きがちです。24時間365日買い物ができますが、そこから思い出が生まれることはほとんどないでしょう。そこで、ECの利便性を活かした上で販売員の接客や思いがけない商品との出会いなど、店舗の良い部分を持ち込むことができないかと考えました」
さらに仲田さんは、ほぼ時を同じくしてファッションデザイナーを目指すある学生と出会う。
「彼女に言われた『今の世界では“創りたいもの”ではなく、“売れるもの”を作らないといけないんですよね』という言葉が、現実的であり衝撃的でした。たしかに当社も才能の芽を活かしたいという気持ちがありながらも、在庫リスクに直面するとなかなか思い切った判断はできません。こうしたジレンマの解消法を考える中で、バーチャルファッションに可能性を見出したのも、REV WORLDSの構想に結びついています」
そして仲田さんは、社内起業制度ができた2018年にREV WORLDSの企画を提出する。
「実は、初回は実現性を問われて落選しました。そこで独学でCGを学び、翌年に自作のイメージ図とともに再度企画を提出したところ、GOサインが出たのです。やはり目で見て理解してもらうことは大事ですね。そこから開発に着手し、2021年3月にREV WORLDSが誕生しました」