世の中にものがあふれ、テクノロジー活用で顧客の見える化が進んだ現代。顧客満足度の向上やコアなファンの獲得、LTV向上が企業・ブランドの持続性を大きく左右する中、大手企業が顧客と直接つながる試みが相次いでいる。サッポロビールが2018年より開始した「HOPPIN' GARAGE」も「共創」を軸に顧客と商品を開発して販売する、いわば大量生産・大量消費とは対極にあるビジネスモデルだ。マス向けに愛される商品を多く生み出してきた同社が、なぜ今このようなブランドを立ち上げたのか。ブランド設計時に着目したポイントや顧客交流のありかたについて、新規事業開拓室 マネージャーの土代裕也さんに話を聞いた。
ビール製造にも多様性と寛容さを
一般消費者から募ったビールにまつわるストーリーや、斬新なアイディアを基に商品をつくり、開発の過程や顧客からの評価を公開しながら新たなコミュニケーション創出に取り組むHOPPIN' GARAGE。これまでマス市場で勝負し、既存の小売や流通を介して多くの消費者に商品を届けてきたサッポロビールがなぜ今、あえて顧客1人ひとりと向き合おうとしているのだろうか。
「長らく商品開発に携わってきた経験から、ビールを味わう心地良さやそこから生まれる人と人のつながりなど、物質以上の価値を表現したい、ビールづくりの新たな可能性を探りたいと考えました。また、ビールづくりのプロセスに携わりたいと望むコアなファンの声を耳にしながらも、この業界は酒税法に基づく免許制度が存在するため参入が容易ではありません。高い熱量を持つ人々に対し、参画する場を提供することで、商品により多様性や寛容性を持たせることができるのではないか。こうした発想がブランド立ち上げの根底にあります」
自らが発起人となり、新規事業として社内にHOPPIN' GARAGEの構想を提案した土代さんだが、最初に長い伝統を紡いできた企業ならではの壁にぶつかったと振り返る。
「当社は、140年以上の歴史の中であらゆるプロセスが現在のビジネスモデルに最適化されています。大量生産を前提とした体制の中で小ロットの商品をつくり、ビジネスとして成立する形を見つけ出すのは非常にハードルの高いことでした。しかし、当社はメーカーとして『良いビールを届けたい』という思想を強く持っています。こうした思想とHOPPIN' GARAGEで実現したいことは、決して食い違ってはいないと自負していたので、賛同を得る方法を考えました。
私は商品開発に携わる前、人事や営業などさまざまな部署を経験してきました。その経験を活かし、現場がどう思うか、どう提案すれば経営サイドに理解してもらえるかを想像した結果、D2Cで商品を届け、顧客と交流する現在の形に行き着いたのです。リスクを抑えながらコストを下げる仕組みづくりには相当苦心しましたが、サッポロビールだからこそ実現できる形を模索しました」