高い接触頻度でダイレクトに顧客とつながる アプリの持つ強みとは
金子氏はセッションの冒頭で、ニールセン デジタルの「ニールセン モバイル ネットビュー」による調査データを紹介。2019年12月時点の人々のスマートフォン利用時間は、1日あたり平均3時間46分にも上ると言う。結果をさらに細分化すると、その時間のうちの92%は何かしらのアプリを利用しているという結果も出ており、いかにアプリがスマートフォンユーザーの時間を占有しているか、見て取ることができる。
コロナ禍は、企業アプリの利用状況にダイレクトな影響を及ぼした。ユナイテッドアローズの場合、緊急事態宣言発令後の週末に公式アプリのユニークユーザー数が100万を超え、実店舗を開けることができない危機的な状況下でも、情報収集や購買のチャネルとしてアプリが有効に機能することを証明している。ユニクロは、アプリにおけるコンテンツマーケティングを抜かりなく実施。自宅にいる時間を快適に過ごすための特集コンテンツを発信し、顧客に適切な情報を発信することで購買単価の向上につなげている。元々アプリを会員証として運用していたファンケルは、コロナ禍を機にアプリにEC機能を実装した結果、EC売上高を前年同月比20%まで伸長させた。
ヤプリが提供するクラウド型アプリプラットフォーム「Yappli」の導入企業も、未曾有の事態にアプリを用いて柔軟に対応している。スポーツジムを運営するルネサンスでは、ながらく施設を開けられない状況が続いていたが、オンラインレッスンなどの動画コンテンツをアプリで配信し、顧客との継続的コミュニケーションを実践。プレナスが運営する持ち帰り弁当チェーンの「ほっともっと」では、顧客が店頭に滞在する時間を短縮するため、アプリを通じた受取予約やデリバリーサービスを実施し、コロナ禍でも売上を確保したと言う。
ここで金子氏は、アプリの特徴として「高い接触頻度」「スムーズな動作」「リアルタイム性」の3点を挙げた。アプリはスマートフォンのホーム画面にアイコンが配置されるため、タップすればいつでもアクセスできるのが大きな強みだ。また、スマートフォンに最適化されているため快適な操作性を実現できるほか、プッシュ通知などの機能でダイレクトに顧客とコミュニケーションを取ることができる点も、ウェブサイトにはない魅力と言える。
神戸レタス・UNDER ARMOURの事例に見るアプリの価値
金子氏は、今回のイベントテーマ「Build Up Fashion Commerce~デジタル活用で生まれ変わるファッションEC~」に沿って、Yappliを導入するアパレル企業の事例を紹介した。関西発のレディースアパレルECサイト「神戸レタス」は、メルマガの開封率減少という課題を解消するためにアプリ開発に着手。当初はスクラッチ開発でプロジェクトを進めていたが、スムーズな運用を目指した結果、Yappliに舵を切ることを決めたそうだ。
同ブランドは、コロナ禍においてアプリ活用のほかにも、YouTubeチャンネルを開設したり、Instagramを活用したライブ配信を行ったりと、試行錯誤を重ねながら顧客とのつながりを意識した取り組みを実施。その結果、CVRの大幅改善に成功している。この要因を、金子氏は次のように解説した。
「パレートの法則というマーケティングのピラミッドに各チャネルを当てはめると、企業の公式アプリを利用し続けている顧客は、ピラミッドの上部に位置するファンやリピーターである可能性が非常に高いと言えます。『神戸レタスのことをくまなく知りたい』『タイムリーに情報を得たい』という能動的な顧客がアプリを継続利用する一方、SNSなどのチャネルにはライトに情報を仕入れたい顧客が集まります。こうしたチャネルごとの傾向を理解してコンテンツを作ることが非常に重要です」(金子氏)
「神戸レタスの取り組みで特筆すべき点は、続きを読みたくなるプッシュ通知にある」と金子氏は続けた。企業からの事務的なお知らせ文言ではなく、店長から顧客自身に直接届けられていると感じられるような写真や言い回しが徹底されている。2020年夏の売上の中でも、とくにアプリ経由の売上は成長率が著しく、ファンに向けた施策がしっかりと実を結んだと考えられる。
スポーツ用品メーカーのUNDER ARMOUR(アンダーアーマー)も、Yappliを活用する企業のひとつだ。同ブランドは会員証のデジタル化を実現するため、Yappliを採択。同社では「オートプッシュ機能」を活用し、あらかじめ設定したシナリオに添ったプッシュ通知を自動的に行っている。アプリダウンロード時には10%オフクーポンの特典を送付し、翌日にはブランドの歴史やストーリーを伝えたコンテンツを配信、3日後には顧客の性別や興味のあるスポーツを問いかけ、属性情報を収集。取得した情報はアプリ内コンテンツのパーソナライズに役立てられるため、顧客のアプリ利用はますます促進される。
同ブランドも、4月の緊急事態宣言を受けて実店舗の臨時休業を決めたが、アプリを通して自宅で簡単にできるトレーニング動画を配信し、関連商品をアプリ経由で販売することで売上を生み出したと言う。顧客から寄せられた「子どもと一緒にできるトレーニング動画が見たい」という要望にも即座に対応し、「コンテンツの格納場所がわかりにくい」という声にはアプリのメニューバーを改修して応えるなど、顧客ファーストな対応を重ねた結果、メルマガよりも高い流入数やロイヤリティ獲得に成功している。
「客数、客単価、頻度のうち、もっとも増やすことが難しいのは客数ですが、購入単価や回数はコンテンツでいくらでもリカバリーできます。まずはアプリのUIとUXを追求し、プラットフォームを使いやすく整えてからパーソナライズされた良質なコンテンツをお客様に届けることが重要です。お客様は必ずしも買うためだけにアプリを利用しているわけではありません。お客様の声をしっかりと拾いながら、情報を適切に届けていきましょう」(金子氏)
非エンジニアでも最短1ヵ月で導入可 ファッションECとも親和性の高いYappli
ヤプリが提供する「Yappli」は、アプリ開発から運用、分析までをワンストップで実現するアプリプラットフォームだ。プログラミングの知識を持たない非エンジニアの担当者でも、ノーコードで簡単にアプリ開発ができ、従来のスクラッチ型開発よりも圧倒的に安価かつスピーディーにアプリ制作・運用が可能となる。コロナ禍で今まで以上にスピード感ある対応を求められるEC担当者にとって、最短1ヵ月で導入できるYappliは強い味方となるだろう。サーバー代やメンテナンス費用が定額である点や、容易にバージョンアップができるなど、SaaSならではの強みも備えている。
Yappliの特徴は、直感的に操作できる管理画面にある。2020年7月にリリースされた「ダッシュボードβ版」によって、管理画面にログインした直後からアプリのダウンロード数やアクティブユーザー数、プッシュ通知への反応をひとめで確認し、アプリの“健康診断”を行うことができる。
アプリに新しい機能を追加したい場合は、画面左側のテスト環境と右側の管理画面が連動しているため、ドラッグアンドドロップの操作ひとつで、即座にメニュー変更を行えるほか、アプリ利用を促すプッシュ通知の設定も、「プッシュ通知機能」よりブログ感覚で容易に設定することが可能だ。
アパレル企業に向けておすすめの機能として、金子氏は「ECコネクト」を紹介した。同機能はECサイトからAPIで商品情報を引き込み、アプリ内で商品一覧を高速表示させることでユーザーのストレスを軽減するもの。従来メジャーであったWebViewを用いた商品表示よりも利便性が向上し、実際に「商品詳細誘導率を20%アップすることができている」と言う。
このほかにも、IDやパスワードなどのログイン情報保持機能や、生体認証でログインできる機能、アプリでログインが完了していればアプリ内に表示されるウェブサイトで再ログインが不要となる機能など、UX向上につながる機能が豊富に備わっている。
続いて金子氏は、アパレル企業に好評な機能として2020年7月に実装されたバニッシュ・スタンダードの「STAFF START」との連携機能を紹介した。コーディネートコンテンツを充足させることで顧客に豊富な情報提供を行うのみならず、スタッフ個人の販売実績も可視化できるため、モチベーション向上にも効果的だ。
これまでアプリひと筋で事業展開を行ってきたヤプリは、アプリ管理画面専門のサポートチームを構え、チャットを用いた万全な支援体制を構築。アプリはリリースがゴールではなく、そこからEC売上や顧客のリピート率向上といった成果を生んでこそ意味を持つため、同社はカスタマーサクセスチームによる継続的なフォローにも注力しているそうだ。
「当社では、勉強会やユーザー会など横のつながりを強化する場も定期的に設け、アプリ開発初心者でも安心して取り組むことができる環境構築を行っています」(金子氏)
コロナ禍でオンラインにおける顧客とのつながりをいっそう強化する必要性が生じている今、Yappliで負担を最小限に抑えたアプリ運用を検討してみるのもひとつの手と言えるだろう。