パーソナライゼーションとモバイルへの対応がもたらす効能
こうした市場の変化に対応するためのキーワードとして、熊村氏は「パーソナライゼーション」と「モバイル」のふたつを挙げた。
セールスフォース・ドットコムが行った調査によると、「パーソナライズされたコミュニケーションが提供されない場合、ブランド変更を検討する」という質問に52%の回答者がYESと答えている。パーソナライゼーションの重要性を示す数字だが、その手法に悩む担当者は多い。
「パーソナライゼーションがプロファイリングの延長になってしまっているケースをよく見受けますが、そのやりかたでは思わぬ落とし穴にはまってしまいます。例を挙げて解説しましょう」
「年齢や居住地、家族構成などのプロファイリングだけ見れば問題なく行えていますが、このプロファイリングにしたがって出てくる人物はこのふたりです。みなさんはこのふたりに同じ商品をレコメンドしますか? このように、プロファイリングだけ参照していると限界がきます。チャールズ皇太子に売らなければいけない商品をオジー・オズボーンに売ってしまうという状況を回避するためには『行動』や『データ』が必要です。その人がサイト内外でどんな行動をとっているのかがわかってはじめて、パーソナライゼーションが行えます」
正しいパーソナライゼーションを行うために明日から起こせるアクションとして、熊村氏は「サイト検索との組み合わせ」を提案した。
顧客がサイト検索とレコメンデーションのどちらも利用した場合、サイト検索のみ、あるいはレコメンデーションのみ利用した場合に比べて購入頻度が飛躍的に上がっている。
また、パーソナライゼーションはサイト滞在時間にも直結する。サイト滞在中の体験に満足してもらえれば、「また来たい」と思ってもらえる。
SalesforceのECプラットフォームであるCommerce Cloud(Salesforce B2C Commerce)は、AIを標準機能として提供しており、商品の並べ替えやキーワード検索をパーソナライズできたり、キーワードのチューニングを自動化できたりする。現在は試験的に運用されている最新の機能がAIを活用した画像による商品検索だ。
「ECにおいて画像はものすごく重要だと思います。この機能は、SNSに投稿されている画像を顧客がアップロードすると、同じ商品がサイト内に提示されるというものです。このように、顧客の動向に適した商品のレコメンデーションを行うことで、ひとり当たりの購買単価を上げることができます」
ふたつ目のキーワード、モバイルで重視するべき点は「速さ」だ。
「モバイルに速さがなければパフォーマンスは伴いません。PCを開いたり実店舗に行ったりする時間のない顧客は、モバイルに速さを求めるので、それが損なわれた時の影響を無視してはいけません」
速さの追求はサイトのロード時間だけでなく、さまざまなポイントで行える。たとえば決済だ。決済時にカード情報を入力する手間は、モバイルウォレットに対応することで解消できる。このようにして購入までのスピードが速くなると、CVRや注文数の向上にもつながる。
モバイル対応が求められているのはECだけではないという。実店舗でもモバイル端末があれば、他店舗の在庫確認や詳細な商品情報の案内をスタッフが素早く行えるようになる。広い意味でモバイルを取り入れることが、より良いカスタマーエクスペリエンスの実現に必要だと熊村氏は語った。