米国市場の変容から浮かび上がる2つのキーワード
Keynoteとなる本セッションでは、新しいカスタマーエクスペリエンスの形と題し、EC担当者がこれから先の流れにどう相対するべきかを示唆した。
熊村氏はまず、米国EC市場の現況をホリデーシーズンの数字とともに解説した。サンクスギビングデー、ブラックフライデー、サイバーマンデーなどのイベントが続く11月後半がホリデーシーズンと捉えられていたが、近年はこのシーズンが「前倒しと長期化」の傾向にあるという。
このグラフは、2014年以降の1日あたりのECサイト来訪者数をまとめたものだ。2017年以前はピークを迎える11月を除き前後のシーズンでサイト来訪者数に大きな変化は見られないが、2017年以降は11月のピークは変わらないものの、その前段階で来訪者数を示す折れ線が上下している。実際、41%の消費者が10月またはそれ以前にホリデーシーズンの買い物を始めると回答している。この動きを受け、米国のECサイトはどのような対応をしているのか?
「ECサイトは顧客プロファイルの獲得やパーソナライゼーションの準備、検索キーワードの見直しといった仕込みを8月ごろから始めています。アメリカでは8月後半に新学期が始まり、10月にコロンブス・デーと呼ばれる祝祭日とハロウィンもあることから、この機会をうまく利用してパーソナライゼーションの精度を高めていくことができるわけです。つまり、ホリデーシーズンは『少しでも買う気のある顧客から1週間で一気に売り上げを刈り取る短期イベント』から『約5ヶ月かけてひとりひとりの顧客から最大限の売り上げを回収する中期イベント』に変わってきています。前者が顧客をマスと捉えていたのに対し、後者は顧客を細かいグループの集合体と捉えて、それぞれの顧客に合わせた戦略を立てていく必要があります」
ホリデーシーズンの変化は主戦場にも見られる。いわゆるモバイルシフトだ。
この図が示すように、ECにおけるモバイルの影響力は年間を通して大きくなっている。2018年のホリデーシーズンに関連したモバイルの影響力はこの通り。
注目すべきは、クリスマス当日に商品検索を行った割合だ。前倒しされたホリデーシーズンがピークを過ぎてもなお、年末ギリギリまで販売機会が続いていることがわかる。どこにいても手軽に商品を閲覧し、購入まで完了することのできるモバイル特有の傾向である。
パーソナライゼーションとモバイルへの対応がもたらす効能
こうした市場の変化に対応するためのキーワードとして、熊村氏は「パーソナライゼーション」と「モバイル」のふたつを挙げた。
セールスフォース・ドットコムが行った調査によると、「パーソナライズされたコミュニケーションが提供されない場合、ブランド変更を検討する」という質問に52%の回答者がYESと答えている。パーソナライゼーションの重要性を示す数字だが、その手法に悩む担当者は多い。
「パーソナライゼーションがプロファイリングの延長になってしまっているケースをよく見受けますが、そのやりかたでは思わぬ落とし穴にはまってしまいます。例を挙げて解説しましょう」
「年齢や居住地、家族構成などのプロファイリングだけ見れば問題なく行えていますが、このプロファイリングにしたがって出てくる人物はこのふたりです。みなさんはこのふたりに同じ商品をレコメンドしますか? このように、プロファイリングだけ参照していると限界がきます。チャールズ皇太子に売らなければいけない商品をオジー・オズボーンに売ってしまうという状況を回避するためには『行動』や『データ』が必要です。その人がサイト内外でどんな行動をとっているのかがわかってはじめて、パーソナライゼーションが行えます」
正しいパーソナライゼーションを行うために明日から起こせるアクションとして、熊村氏は「サイト検索との組み合わせ」を提案した。
顧客がサイト検索とレコメンデーションのどちらも利用した場合、サイト検索のみ、あるいはレコメンデーションのみ利用した場合に比べて購入頻度が飛躍的に上がっている。
また、パーソナライゼーションはサイト滞在時間にも直結する。サイト滞在中の体験に満足してもらえれば、「また来たい」と思ってもらえる。
SalesforceのECプラットフォームであるCommerce Cloud(Salesforce B2C Commerce)は、AIを標準機能として提供しており、商品の並べ替えやキーワード検索をパーソナライズできたり、キーワードのチューニングを自動化できたりする。現在は試験的に運用されている最新の機能がAIを活用した画像による商品検索だ。
「ECにおいて画像はものすごく重要だと思います。この機能は、SNSに投稿されている画像を顧客がアップロードすると、同じ商品がサイト内に提示されるというものです。このように、顧客の動向に適した商品のレコメンデーションを行うことで、ひとり当たりの購買単価を上げることができます」
ふたつ目のキーワード、モバイルで重視するべき点は「速さ」だ。
「モバイルに速さがなければパフォーマンスは伴いません。PCを開いたり実店舗に行ったりする時間のない顧客は、モバイルに速さを求めるので、それが損なわれた時の影響を無視してはいけません」
速さの追求はサイトのロード時間だけでなく、さまざまなポイントで行える。たとえば決済だ。決済時にカード情報を入力する手間は、モバイルウォレットに対応することで解消できる。このようにして購入までのスピードが速くなると、CVRや注文数の向上にもつながる。
モバイル対応が求められているのはECだけではないという。実店舗でもモバイル端末があれば、他店舗の在庫確認や詳細な商品情報の案内をスタッフが素早く行えるようになる。広い意味でモバイルを取り入れることが、より良いカスタマーエクスペリエンスの実現に必要だと熊村氏は語った。
EC担当者はコマースを一気通貫で捉えよ
EC市場やカスタマーエクスペリエンスの形が変容するにつれ、EC担当者の役割も変わっている。これまではECサイトの安定した運営管理が求められていたが、これからは顧客がECサイトを訪れる前や、購入した後までをスコープとして捉える必要があるという。
「これまでは左側の図のように『商品を見る(Browse)』、『商品を買う(Buy)』、『満足を満たす(Fulfill)』という3つの流れでコマースを管理していました。このサイクルの中心に根ざしているデータはコマースデータで、サイクルはあくまでECサイトの中だけで完結していました。
ところが今は、サイクルの規模を大きく捉える必要があります。ECサイトに来てもらう前のマーケティング、来てくれた顧客に提供するスムーズなコマース体験、購入後もその先につながる新しいレコメンドサービスなど、これらすべてをEC担当者が考えなければいけなくなっています。私たちはこの大きなサイクルを『ユニファイドエンゲージメント』と呼んでいます」
ユニファイドエンゲージメントへの取り組みで、「ECサイトにおけるカート放棄率が 77%にのぼる一方、50%以上の顧客がプロモーションやディスカウント付きのターゲットメールを受け取った場合、カート放棄した商品を購入する」という顧客の傾向が明らかになった。ECサイトの中だけでサイクルが完結している場合はカート放棄率の高さしか見えずに終わってしまうが、担当者がマーケティングの領域までカバーできていれば、その後の50%以上にも気づくことができるという例だ。
ECサイト内の動きだけにとどまらず、店舗やソーシャル、アプリ、メールなどの多様なチャネルで顧客が起こしたアクションをシームレスに捉えるためには、システムの整備も必要だ。バラバラのツールやシステムで得たデータを断片的に取得していては、先のような見落としが起こりかねない。セールスフォース・ドットコムでは、クラウドプラットフォームベンダーである強みを活かし、マーケティングからコマース、サービスまでを一気通貫でサポートできる。ECサイトに来る前、来た時、来た後を360度きちんと取り囲み、その都度さまざまな接点を使ってアプローチすることが可能だ。
熊村氏は最後にこうまとめた。
「デジタルコマースの世界において、パーソナライゼーション、ひいてはAIとモバイルが成長を牽引する重要なエンジンであることは間違いありません。また、市場の変容とともにEC担当者の役割はサイトの枠を飛び出し、より広い領域へと及んでいます。多様な顧客とチャネルを束ね、それぞれに適した手を打たなければならないこれからのEC担当者を、セールスフォース・ドットコムはCommerce Cloud、Marketing Cloud、Service Cloudなどのシステムによって360度サポートします」(了)
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