試着をしてもタンスの肥やしが増えていく理由
シーン3-2 応用編 洋服を試着して購入する場面
試食をして購入したもの、あるいは以前に食べたことがあるものを注文する時と同様の場面とお考えください。試着をしたのですから、十分にクオリティを確認したはずです。この試着という段階を経て、購入を決心したわけです。
サイズはもとより着やすい、暖かいなどの機能面だけでなく、似合うか似合わないかといった感性系のクオリティもチェックしたはず。試着時の洋服と購入後に着る洋服は同じものであるし、着る人ももちろん同じです。
ではなぜ、タンスの肥やしという、買ったけれど着ない服が多く存在するのでしょうか。その理由を簡潔に言えば、買った洋服が期待していたクオリティではなかったから、ということになりますが、なぜこのようなことが発生するのでしょうか。
前述の購入を決心する場面をそれぞれ包括的に考えていくと、こんな共通点が見えてくるように思うのです。
お客様が購入を「決心する段階」においては、実際のクオリティよりもお客様の想像・予想が最上位の比率を占める要素となっている。極論を言ってしまえば、お客様の想像や予想(以下、想像の一語にまとめます)、つまり購入後の未来や、その商品の使用時にお客様自身が満足している状態を喚起することができれば、実際のクオリティが十分でなくても購入していただけるはず。したがって商品のクオリティは、購入行動と直接的な関係はない。
最高の原料で丹精こめて作った料理が、
必ずしも美味しいとは限らない
また、この共通点に基づいて考察すると「売る」「買う」という事象をとりまく様々な事柄を一度に説明できるかと思います。
お客様が満足している状態を喚起する要素が、実際のスペックやクオリティとまったく異なることを詐欺と言います。一方で商品を見ているお客様にその商品が持つ様々な要素=スペックやクオリティを使って満足を想像させることができるのが優秀なセールスマンであり、効果の高いPOPやコピーであり、たとえばで言うと着回しなど使用方法の提案ではないでしょうか。生産過程やこだわった材料などの開示、あるいは物語と呼ばれるその商品に関わる歴史や想いなどのコンテンツもお客様の想像を喚起する要素であって、クオリティを裏付けるものではありません。最高の原料で丹精こめて作った料理だからと言って、必ずしも美味しいとは限らないのです。
逆に言えば、どれだけクオリティの高い商品であったとしても、お客様にお客様自身が満足している状態を喚起する要素や訴求に乏しければ、購入してもらうことは難しいでしょう。さらに突き詰めて考えると、ホームページやカタログのコンテンツは良さを伝えるだけでは充分でなく、満足の想像喚起に至ってはじめて購入に結びつくのではないでしょうか。
前述の1から3のシーンもすべて、【購入を「決心する段階」においては、実際のクオリティよりもお客様の想像・予想が最上位の比率を占める要素となっている】というこの共通点をもとに説明できそうです。
- シーン1(初めての居酒屋):店構えやメニュー、客層など
- シーン2(口コミで聞いて):第三者からの情報
- シーン3-1(一度食べたことがあるもの):記憶によって
- シーン3-2(洋服を試着して購入):店の雰囲気や買い物した時の気分、あるいは「お似合いですよ」などの第三者からの心理的なプッシュ
上記によってお客様の想像が膨らみ、購入を決心するに至ったのではないでしょうか。タンスの肥やしは購入時点での想像が若干膨らみ過ぎただけの話ではないかと思うのです。
ECだけでなく小売業のコンサルタントやコピーライター、商業カメラマンやデザイナーなど各分野のエキスパートは、「使っているところを想像させる」「商品ではなく体験を売れ」「シズル感」などそれぞれ表現は異なりますが、体感的に前述の共通点に気づいているのだと思います。