販売のその先へ オンラインとオフラインの行き来は前提に
――村田さんの「翻訳」が、ファッションとITとの橋渡しを担っていたんですね。
村田 そもそもアパレル業界は、商品領域と販売領域の職種が事業の中心的役割を担っている、という認識が強く、仕組みを作る側のエンジニアなど、デジタル領域やマーケティング領域の職種への注目度は低いと思います。しかし現在では、そのような職種が事業を成長させていくうえで重要な役割を担っていくという認識を持ってもらえるよう、トップを含め、社内に対しても伝えていく必要があると思います。
エンジニアなどの職種の人たちが、「この会社で仕事をしたい」と思えるような環境づくりをしていくうえでは、そのような啓蒙活動も不可欠です。
――そのような活動は経営層に対しても必要になってくるように思いますが、どのような進め方が有効なのでしょうか。
樋口 経営層自身が半年くらいECでしか服を買わないようにする、ということもひとつでしょう(笑)。意外とECの企画やUX/UIの担当者自身ですら、ECで全然服を買わないケースもあります。しかし、自分が生活者としてECに触れないとユーザーの気持ちはわからないし、ECの重要性もわからない。忙しい中で隙間を縫いながらECで買い物をする、という経験をしてもらいたいですね。僕自身、ECのヘビーユーザーです。
村田 成長してきたアパレル企業は、店舗を拡大することで売上を拡大してきたという成功体験があります。ですので、店舗中心主義、店舗至上主義が残っている。でもこれから大事なのは、それを「捨てること」ができるかどうか。今後は、オンライン起点で顧客体験を設計していくことが必然となっていくはずです。Amazonは、オンラインを起点としながらもボタンひとつで商品を購入できる「Amazon Dash Button」、スマートスピーカーの「Amazon Echo」など、従来の店舗とは異なる形で、リアルの場である家の中にまで浸透しようとしています。
樋口 店舗を中心に考えていると、どうしても販売をゴールにしてしまいがちなのですが、オンラインを起点として生活の中に入っていくことで、購入した商品の使われ方、次にレコメンドすべき商品など、販売の先が見えてくる。現在は店舗にあると考えられている最前線をラストワンマイル、家の中にまで進めていく必要があると思いますね。
――では、今後のアパレル業界はどのように変わっていくと思いますか?
村田 顧客体験を設計する際には、オンラインとオフラインを行き来することを前提とするオムニチャネル化は必須となるでしょう。またその際には、Amazonのような巨大企業とは異なる顧客体験を作らなくてはなりません。顧客から支持・共感されるブランドになるためにも、「顧客を起点に、川上から川下まで一貫して価値創造を行えるモデルづくり」が重要になると思います。
樋口 そういう意味では、ただ物を仕入れて販売するだけの小売業は確実に衰退していきます。そんな状況を踏まえたうえで、商品開発から販売までを手がけなければならない。そして、マーケティングによって消費者の生活に入り込むことに成功した企業こそが、生き残っていくのではないでしょうか。