ユーザー軸で分析すると、導線が映像として浮かび上がってくる
ある特定のユーザーの、デジタル上での一連の行動を観察しようという、従来のデータ分析とは異なる切り口の顧客理解手法。フェリシモがそれを取り入れたのは、社内のデータリソースを統合・分析する部署である、マーケティングコントロールセンター センター長 橋本和也さんの発案によるものだ。
橋本さんはマーケティングコントロールセンターほか、同社のメイン事業で、月に一度商品が届く『定期便』事業のマーケティングコミュニケーションチーム、顧客とのコミュニケーションを強化するカスタマー・マネジメントグループも統括している。
「お客様とのコミュニケーションに関して、実施・計画・強化の3つの仕事をしていることになります。そのため、たくさんのビッグデータを見ているのですが、それだけでは肌感覚で理解しづらく、イマジネーションが湧かなかったので、顧客理解を深めるためのプロジェクトを走らせていました。しかし、デジタル上の行動分析は手間がかかり、どうにかならないかと悩んでいました。そんな中、2016年秋くらいに『ユーザグラム』のベータ版のご紹介をいただき、『これでやっと楽ができる』と思いました。個票をできるだけ簡単に見たいという要望が社内から上がっていたこともあり、ユーザグラムを導入しました」
ユーザグラムは、特定ユーザーの行動を1人ひとり観察する「デジタル行動観察」を業務に組み込み、効率的なPDCAを実現するソフトウェア・ソリューションだ。従来のセッション軸の定量分析とは異なり、ユーザーを軸に一連のデジタル上での行動を追い、何が起きているかを把握するツールである。
「平均時間、滞在時間といった切り口では、リアルなお客様像がなかなか浮かんでこなかったんです。ユーザグラムを活用することで、お客様導線が映像として浮かびあがってくるようになりました。社員も、自らカタログやウェブを見て実際に購入し、箱を受け取るという行動をとってはいるのですが、ユーザグラムで分析すると、新たな気づきがあります。ユーザー軸で分析し、顧客理解を深めることで、各部署の修正すべき部分の方向性が揃いやすくなり、短期間で対応していくことが可能になったのです」
あるいち施策が効くのではなく、「一連の流れ」が必要と気づく
ファッション事業部でサイト運営を担当する黒田亜由美さんも、ユーザグラムユーザーのひとりである。月1回の『定期便』と注文ごとに届く『特急便』のうち、複数ブランドのサイトを運営し、商品の品出しや特集を企画している。また、SNSを活用した新規顧客とのコミュニケーションにも取り組んでいる。
「正直なところ、以前は、ビッグデータ分析だけで十分ではないかと思っていましたが、実際にユーザグラムを使ってみると、お客様の予想外の動きをたくさん知ることができました。これまでは、ある施策を打ったらこれくらいコンバージョンがあったから、成功/失敗だったという分析で満足していたのですが、特定のお客様の行動を追うことで、どのような行動の結果、なぜコンバージョンにつながったのかを詳細に見ることができるのがいいと思いました。
たとえば、SNSコミュニケーションでのカタログ請求について。ビッグデータ分析だと広告経由の方が多いので、『カタログ無料』のバナーを作り、セグメントも切ってSNS広告で配信してみたところ、芳しい結果にはなりませんでした。ユーザグラムでお客様の動きを見ていると、単純にカタログ請求とSNS広告の相性が良いわけではなく、SNS広告からなんとなくサイトに来て『いいなぁ』と思っていただけると、結果的にカタログ請求をしていただけるという流れがあるのかなと。あるいち施策が効果的なのではなく、一連の流れが必要なのだということを学びました」
さまざまな業務を兼任し、通常のビッグデータ分析も継続している黒田さん。ユーザー軸での行動観察は単純に業務が増えた形になるが、どれくらいの頻度で行っているのだろうか。
「私の場合は、いちばんボリュームが大きい『定期便』が月1回ですから、ある程度データが貯まる2週間に一度、それまで試したいろいろな施策を検証するのに利用しています。少し変わった活用方法としては、エラーページをユーザグラムで検索し、そのページをひとつずつ潰していっている社員もいます」
このように、デジタルチームを中心に各自の業務にあわせ、ユーザグラムの利用が進んでいる。全社的にユーザグラムの導入を推進した橋本さんは、現状をどのように受け止めているのだろうか。
「導入から半年を経て、ウェブ担当者は皆、自らユーザグラムを見るようになってきています。席の近い者同士で『このデータ見た?』というような会話も生まれ、自発的な情報交換が生まれています。私が久しぶりに触ったら、『それはもうこっちの機能でやったほうが早いですよ』と、メンバーから教わったくらいです。
黒田は『定期便』の特徴がら2週間に一度の頻度ですが、もっと頻繁に見ている者も多く、施策を打った初速の段階でお客様の動きを確認し、途中で軌道修正が出るようになったとの声も聞いています。これまでは拠り所なく、『もっとこうしたほうがいいのでは』『いや、ああしたほうががいいのでは』という議論が起きていたのですが、ユーザグラムを見れば実際のお客様の動きが明確にわかりますからね」(橋本さん)
「わかりにくいなと感じたページを担当者へ共有する際に、ユーザグラムで、お客様の行動を1つひとつ遡って、一緒に体験できるのがいいですね。言葉で説明するよりも、『ほら、こういうふうにお客様も迷っている』という事実を見てもらったほうが、伝わりやすいですから」(黒田さん)
カタログユーザーが毎日ウェブを見ている!新たな気づき
カスタマー・マネジメントグループに所属し、お客様からの問い合わせ窓口で100名ほどのオペレーター部門のフロア・マネージャーを担当している河本幸造さん。物流センターと連携し、発送直前の箱の中身を確認する『お届け箱調査』を実施する中で、ユーザグラムを利用し、ユーザー1人ひとりの行動を観察している。
「お客様対応を通じて、自分ではお客様のことを知っていると思っていましたが、ユーザグラムによって新たな気づきがたくさんありました。たとえば、カタログから注文されている方々は、きっとウェブはご覧になっていないだろうと思っていたのですが、ユーザグラムで実際には毎日のようにウェブをご覧になっていたお客様を見つけました。普段、あまりお客様窓口にお問い合せをしてくださらない方々についても、デジタル上のデータから理解を深められるのがありがたいですね」(河本さん)
お届け箱調査には、商品企画など、データ分析に不慣れな部署のメンバーも参加。河本さんは、そういったメンバーにユーザグラムの使いかたを紹介し、場を進行する役割も持つ。
「普段はデータ分析をあまり行わず、ユーザグラムをはじめて見るメンバーであっても、どのようにデータを見るかの説明は1分くらいで済みます。ユーザビリティの非常に高いツールだと思います」
河本さんのミッションのひとつとして、顧客の継続を促進する施策を考えるというものがあるが、ユーザグラムを活用することでヒントを得て、さまざまな提案を行っているそうだ。
「1年以上購入がなかったのに急に戻ってきていただき、そこから継続してくださっているというお客様もいらっしゃいます。こういった方々の行動をユーザグラムで分析し、実際にインタビューも行うなどして理解を深め、長くお付き合いしていけるお客様を増やしていけたらと考えています」
ユーザー1人ひとりの行動を捉える!デジタル行動観察ツール「ユーザグラム」はこちら
ウェブサイトに訪れる1人ひとりのユーザー行動を追うことで、ユーザーが離脱していたり、つまづいているポイントを把握できるので、成果が上がるUX改善の施策につながります。
ビッグデータでは見逃してしまう、意外と大事な役割への気づき
ユーザグラム導入から半年、各担当者がそれぞれに新たな気づきを得るだけでなく、見えにくかった施策の成果を可視化するなど、全社的なプロジェクトでの投資対効果が表れてきていると言う。
「しばらくご購入いただいていないお客様にお送りしていたDMのご案内が、実は有効であることがわかりました。従来はハガキに記載したキャンペーンコードの入力数で評価しており、それほど効果が高い施策ではないなと判断していたんです。しかし、ユーザグラムでデジタル上の行動を見てみると、実際は多くの方がウェブを訪れてくださっていることがわかりました。
購入につながっていない一因として、パスワードをお忘れの方がリマインドページで挫折し、離脱してしまっているからだとも判明しました。その際、情報システム部にページ改修の相談をしたのですが、お客様の行動を共有することで、担当者もお客様の気持ちになりやすく、結果として年間換算で約1万人の離脱を防止し、照会成功が2万人増加しました」(橋本さん)
ユーザグラムは部署を超えたコミュニケーションにも貢献、自発的な連携も生まれている。
「商品企画メンバーとマーケティングチームがユーザグラムを一緒に見ることで、お客様がどう商品を見ているか、なぜマーケティングチームがこのようなコミュニケーションを行っているか、相互理解を深めることができます。こうした関係部署との連携は、当初は考えていませんでしたが、ウェブ担当者がユーザグラムを使っていることが話題になり、社内の関心が高まってきました。会員向けにサービスを行っているチームとマーケティングチームも、一緒にユーザグラムを見始めています。商品やサービスの設計が思ったように進んでいるかどうかが、一緒に話し合えるようになりました。
また、ビッグデータ分析だと見逃してしまう、数字には表れにくい施策やページの役割があることもわかってきました。たとえば、あるブランドから別ブランドのサイトに遷移する際に、中間に見られるページがあるのですが、それほど意味がないのでは……と思われがちです。けれども、ユーザグラムを見ると、そのページがあるからこそ別のブランドや商品に気づいたといった動きが見えてくる。ビッグデータでは見えてこないけれど、結果の出る施策を、担当者もやる意義を感じて一緒に取り組めるようになるのがいいですね」(橋本さん)
導入から半年で、すでにユーザグラムを使いこなしているように見えるフェリシモ。今後の展望を聞いた。
「私の部署のミッションのひとつに、新規顧客獲得と育成があります。けれども、一度は買ってくださってもその後は継続してくださらない方もいます。ユーザグラムを見て、継続してくださる方とそうでない方の違いは何なのか、観察していきたいです。また、社内でさらにユーザグラムの利用者を広げ、違う視点からの気づきも教えてほしいです。そして、お客様に共通する事象を共有していけたらと考えています」(黒田さん)
「定期便という特性上、月1回のお申し込み手続きのときだけウェブサイトに訪問いただくお客様もいらっしゃいます。お買い物手続きのとき以外にもウェブサイトに訪問をいただき、売り買いを超えた関係性を深めていきたいと思っています。そういった視点でも、ユーザグラムを活用していきたいですね。
もうひとつは、カタログやダイレクトメール、そのほかの施策とからめたウェブ体験をどう作っていくかです。ユーザグラムの活用等で、ウェブサイト単体での気づきは進んできました。『このカタログが届いたから、ウェブを見た』といった、ウェブ以外の施策とからめたウェブ体験の磨き上げが、次の課題だと考えています」(橋本さん)
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ウェブサイトに訪れる1人ひとりのユーザー行動を追うことで、ユーザーが離脱していたり、つまづいているポイントを把握できるので、成果が上がるUX改善の施策につながります。