ターゲティングの対象は「買った人」から「迷っている人」。マーケティングの地殻変動
――御社は「企業はデータの統合と可視化をすべき」というメッセージを発信していますが、その意図をお聞かせください。
平原 ここ数年で、取得できるデータの総量が爆発的に増えています。閲覧や購買履歴、それに顧客の性別、年齢、地域などの属性データですね。しかし、それらをまとめて一元管理するのは大変な作業でした。Microsoft Azureなどクラウドの登場で、これを簡単に安く実現できるようになったため、データ統合によって新たなマーケティングの可能性が出てきました。
鈴木 今まで取得できなかった、または取得しても利用できなかったデータを取得したり、利用できるようになってきました。とはいえ、それをどう活用すればいいのかわからない。一見無関係に見えるデータ同士に相関性があるかどうかは、より多くのデータを深く掘り下げていかないと見えてきません。それが可視化の重要性ですね。
――新たなデータを取得できるようになってから、何が最も変わりましたか?
平原 2005年くらいまでは、購買データの分析が主流でした。それを元に、購買者にカタログを送るなどの施策を打つという具合でした。しかしそれは「顧客が購買するまで待つ」という、受け身のマーケティングでした。これに対し、閲覧履歴などのデータを活用すれば、「買うかどうか迷っている人」に接触できるようになった。これは劇的な変化です。
当社では、各種データを組み合わせた独自の「親和性スコア」というもので見込み顧客をランク付けしています。顧客を、購入の可能性が高い順に1位から最下位まで並べ替えるようなイメージですね。これにより、旧来のカタログ送付施策に比べ、売上が1.5倍に増加した企業もあります。
クラウド化による数え切れない恩恵。オンプレミスからの移行もスムーズに
――クラウドが登場し、何が最も変わりましたか?
鈴木 ひとことで言えばすべてですが、たとえば今まではデータ収集だけでも数ヶ月かかっていたのが、クラウドを使うことで1週間になりました。ハードウェア調達、ネットワーク設計、実際の運用に至るまで、特に大企業が相手となれば、大手のSIerしか手が出なかった領域ですよね。当社のような規模の企業がビッグデータの領域に入ることは、10年前には絶対にできませんでした。特にIoT領域でのここ1年ほどの進化はすさまじかったように思います。
――クラウド環境としてMicrosoft Azureを選んだ理由は?
鈴木 元々オンプレミス環境をお持ちのお客様が、クラウドに移行したいという要望は増えてきています。多くの企業がオンプレミスではWindows環境を使っていますから、Microsoft Azureへの流れは自然ですよね。
機能面においては、アカウント情報の取り扱いが優れていると感じます。たとえば「マシンラーニングを使って独自に分析したい」という人がいれば個人単位に権限を付与可能なため、複数人でいろいろな分析を試すことができます。
平原 すでに「Microsoft Azureでマシンラーニングを使っています」「Power BIを利用しています」といった企業さんも増えています。徐々に一般化しつつあるのではないでしょうか。
――競合と比較して、Microsoft Azureの優位点は?
鈴木 少ないコストで、オンプレミスからシームレスに移行できるのがやはり1番でしょうか。企業のデータ基盤を丸ごと移行するような大きな話ですから、そのやりやすさは重要です。お客様によっては、セキュアなデータをどうしてもクラウド上に置けないという場合がありますが、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境にする際も、スムーズに作業できます。
平原 加えて拡張性の高さがあります。特に小売業などは、繁忙期になるとアクセスやデータ量が通常の2~3倍にもなります。今までなら、それによってサーバが落ちるか、繁忙期に合わせてわざわざ大きなデータセンターやサーバを用意するかでした。クラウドなら簡単にスケールアップやダウンができますからね。
経験は重要。しかしデータから判断する選択肢が増えたこともまた重要
――たとえば最近では、「カゴ落ち」対策などが流行っていますが、データ統合を実現するとどのような違いが生まれてくるのでしょうか。
平原 カゴ落ちはあくまで、カゴ落ちしたユーザーだけのデータですよね。それだと、やはり施策の対象となる母数が少ないんですよ。
データ統合する際は、カゴ落ちを含めたすべての行動データを取得します。100人のかご落ち対象がいて20人に効果があるだけでは、CVRは高いですが、効果として小さいですよね。それを40人、50人にするためにカートに入れていなくても効果が高い(親和性が高い)ユーザーを抽出し母数を増やす必要があります。
対象顧客を拡張していくためには、すべての行動履歴データ、会員データ、商品データ等を用いた抽出ロジックが有効です。当社はそういったデータを保持しており、施策に活かしています。
鈴木 ECサイト自体や商品詳細ページがあまり見られていない、というケースも増えているんですよ。たとえばソーシャルメディアや、コーポレートサイトで商品を紹介するブログ記事から購入に至っていたりすることもあります。そういった一歩先のマーケティングを実現するのが、我々の目指すところですね。
――データの統合と可視化が実現すると、ビジネスはどう変わりますか?
平原 経験豊富な人の判断を「ナレッジベース」と呼んだりしますが、それは非常に重要ですし、決して否定しません。しかし、データから判断するという選択肢が1つ増えたことは重要だと思うんです。それにより、経験が浅くても短期間で成果を上げられるようになるのであれば、人材の育てかたも変わっていくでしょうから。
鈴木 情報がブラックボックス化しているケースは結構ありますよね。マーケターやアナリスト、エンジニアなど、それぞれの職種の中だけで閉じて共有されていない。それはやはりオープンにしたほうがいいと思います。情報をみんなで共有して、悪くなることはないはずです。
――今後の展望をお聞かせください。
平原 当社はディープラーニングの技術を活用した画像解析に強みを持っています。先日、洋服などのアパレル製品に自動的にタグ付けする機能を発表しましたが、これは服の形や色、たとえば、青、ジャケット、三つボタン、メンズ、などをAIが学習するというものです。
従来、人が手作業でやっていたことをAIが一瞬でできれば、生産性は劇的に上がりますよね。また、テキスト情報を付与することでSEO対策や商品検索もしやすくなります。仕組み的にはディープラーニングを使っているのですが、AIを用いた効率化は、さまざまな場面で応用できるのではと考えています。
鈴木 この数年だけでも、商習慣はかなり変わりましたよね。たとえば、ソーシャルメディアから購買に至ることなど、少し前まで存在すらしませんでした。ECサイトに直接来て、買って、帰るという流れはどんどん萎んでいき、きっかけはますます多様化していくと思います。そこにどうやってアプローチしていくのかは、今後の課題だと考えています。(了)
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