そのテクノロジーで、店のオペレーションは楽になるのか
――話をイベントに戻しますと、三越伊勢丹の中島さんとのディスカッションをお願いしています。先日中島さんにインタビューしたら、キタムラさんとはECの段階が違っていて、まだ新しいテクノロジーをどんどん入れる段階ではないとおっしゃっていました。
●三越伊勢丹・中島さんに訊く ショッピング新時代、小売ECサイトの役割とは
中島さん、インタビューでおっしゃっていましたけれど、単品管理ができない百貨店でECをやろうというのは、ご苦労があると思います。でもその状態から、ささげをやり、マスターを作り、商品数増やそうとされているのがすごい。地味だけれど、いちばん大事なところだと思います。
お客様は、三越伊勢丹の商品を期待してサイトに来られるわけですから、そもそもの品揃えがきちんとしているのかは重要だと思います。現在のお取り組みは、その期待に応えるためのものですから、結果的にはいちばんお客様の支持を得る形になるのではないでしょうか。
――でもコンシェルジュ機能に興味があって、人工知能も勉強されているという。逸見さんも、人工知能を見にアメリカに行かれたと聞きましたが。
おもしろかったですよ。会長の北村さんも、「店のオペレーションが楽にならないか」という視点から人工知能に関心を持っていました。それは、Pepperくんのようなロボットの中に人工知能があって、自動接客をしてくれるという形ではなく、うちの店員がタブレットを活用して行った接客のデータが蓄積されて、そこからいくつかの選択肢が導き出されて、お客様に提案できるようにといったものです。
今の日本の、とくに当社のような説明を必要とする小売業では、完全な自動接客は難しいんじゃないかな。ICタグがどんどん安くなっていって、食品はじめすべての商品につけられるようになったら、無人のスーパーが出てきたりはするかもしれませんけど。
私の理解では、人工知能は、画像やテキストなどいろんな情報を認知して蓄積し、「これとこれは似ているんじゃないか」というものを導き出すといった仕事をしてくれる。けれど、人工知能だけでは何もできなくて、こちらが何かしらインプットする、アプリケーションが必要なんだなと感じました。
――店員さんの代わりになることはない?
自分がそういう接客されたら楽しくないんですよね。アメリカは合理的なところもあるから、自動接客があうところもあるかもしれない。
でも、業態によってやっぱり違うんですよ。アメリカの小売業をいくつか見てきたのですが、たとえば「TRADER JOE'S」というPBにこだわったスーパー。日曜日に実際に買い物に行ったら、レジへの行列が店の入り口まで続いているのに、誰も殺気立っていませんでした。「最後尾」の札を持ったスタッフと、最後尾にいるお客様が笑顔で話をしてるんです。「TRADER JOE'S」のオーガニックのこの商品は、ここでしか買えないから、並んででも買う。それは、ネットの便利さとは異なる、買い物の楽しさなんじゃないかと思いました。
一方で、ホームセンターの「HOME DEPOT」はどんどん利便性を追求していて、これから行こうとしている店舗の商品在庫が、どの棚にあるかまでスマホでわかります。ある商品を買って、POSを通した後にすぐアプリを更新したら、すぐに在庫数が変わったんですよ。1,700店舗の70万アイテムの在庫を、リアルタイムで更新しているようなんですね。これは、アメリカの土地の広さから、車を30分走らせてわざわざ行ったのに、在庫がないからまた30分かけて別の店に行く、ということがありえないからだと思います。
お買い物の楽しさを提供するのか、便利さを提供するのか、同じシステムを使うにしても目的が違えば変わってくる。それは人工知能も、ほかのテクノロジーも同様でしょう。
――自社に合わせて選ぶということですね。でも選ぶ前の準備が整う前に、Amazonさんがどんどん伸びていって、あわてているというのが日本の小売業さんの現状でしょうか。
今は減っていますけど、Amazonさんも欠品するときはしますからね。それを、システムが効率よく見せているだけです。10以上ある倉庫から、カスケード式に、こちらから1個、あちらから2個、あわせて3個と、在庫を揃えているわけでしょう。だから投資をして、倉庫を建て続けなくてはならない。でも、日本の小売業は新たに倉庫を建てなくても、もともと店と倉庫を持っていますから。
そう考えると、ヨドバシさんは非常にうまくやっていらっしゃいますよね。もともと、倉庫と店の単品管理ができているから、あとはそれをECで売るだけ。スピード配送も、自社の商圏内のあるところには早く届けるし、そうでないところは在庫を見せておいて、お電話いただければお取り置きしますから、お急ぎならお店で買ってくださいという具合です。ターミナル立地の活用ができていますよね。
だから、もしAmazonさんとヨドバシさんを比較するなら、Amazonさんのほうがたいへんだと思います。どんどん投資して、倉庫作らないといけない。早く届かなかったらキャンセルが出るかもしれない。そういう競争になっています。でも、今日、どうしても必要なものって、実は相当少ないですよね。他で代替が効くものが多いです。そして、その何でもかんでも急いで届けるコストが、ほかのお客様にもかかってくるんですから。
日本のお客様は、合理的な面もあるけれど、価格訴求だけでは決めきらないですよね。いくら安くても、来年にはつぶれてしまいそうなお店では、絶対に買わない。買った後も、相談にのってほしいと思っている。日本のお客様は、小売業にそういう関係を求めると思っています。
だからますます、リアルの小売はネットを使うべきだし、ネット通販専業の企業は、いかにリアルと組むかを考えていくべきではないでしょうか。
――ありがとうございました。イベント当日のお話も楽しみにしています。