「テクノロジー」ではなく「人間の熱」が伝わるかどうかが勝負
大里: ここ数年、TikTok Shopが提唱するディスカバリーEコマース(ショッピング動画やライブ配信を通じて商品の発見~購入が可能となる購買体験)のような体験を実現すべく、ライブ配信やショート動画の投稿にチャレンジする企業が一気に増えました。
しかし、「再生数は伸びたのに売上が上がらない」「途中で話が脱線してしまった」といった“しくじり”の声もよく聞きます。河上さんは、長年ラジオやライブ配信の現場を見てこられていますが、なぜ商品の売上につながらない配信が多いのでしょうか。
河上: 結論から言えば、しくじりの原因は“人間性と熱量の欠如”です。どんなにAIや最新機材を使っても、結局は人の温度が伝わらなければライブ配信をする意味がありません。ライブ配信の醍醐味は、台本を超えた「ライブ感」と、そこから生まれるエモーショナルな瞬間です。製品のスペックを説明するだけなら録画でもできますが、ライブの価値は「人間的な熱」をどう届けるかにあります。

河上 純二(a.k.a JJ)/株式会社JY LINK 代表取締役
株式会社JY LINK代表取締役。丸井を経て外資系IT企業でWebサービス立ち上げに携わった後、USEN、mediba、D2Cで新規事業責任者として多数のサービス企画を推進。ラジオ・動画配信のパーソナリティとして20年以上ライブの現場に関わり、企業の動画活用支援にも深く従事してきた。
現在はAI・ブロックチェーンなど複数スタートアップの経営に参画し、10社以上の企業で顧問・アドバイザーを務める。ライブコマースの運用・改善に関する実践知と、人脈を活かしたコミュニティ運営を強みとしている。
大里: 本連載の初回でも視聴者のどんな感情を引き出し、共感を呼ぶかの「感情導線」を設計することの重要性を解説してきましたが、人間的な熱が感情導線の一つになることがわかりました。
河上さんは7社で事業開発を担い、独立後は250社以上の投資家ネットワークを持つ“親父フリーランス”として活動されていますが、人との繋がりを軸にした活動スタイルが印象的です。
河上: 私にとって人脈は資産であり、ライブ配信もそれと同じです。AIはあくまで補助的に使うもので、自分のこだわりや想いを自分の言葉で語ることが大切。スマートフォン1台でも十分な時代です。機材よりも“慣れと場数”が、信頼と熱をつくります。
河上流・しくじりを防ぐ「3つの絶対原則」
大里: 実際にライブ配信で“しくじらない”ためには、どんなことを意識すべきでしょうか。
河上: しくじりを防ぐための3つの原則があるので、それぞれ解説します。
原則1:「尺(時間)」の意識
企業やビジネスパーソンが行う配信では、限られた時間内でメッセージを完結させる練習が不可欠です。たとえばラジオのように30分枠を想定し、オープニングからエンディングまで流れを設計する。時間を意識しないと話が脱線して、肝心な訴求ポイントが抜けてしまいます。時間配分のミスは気をつけないとすぐに陥るので、気をつけていただきたいですね。
原則2:「自分に合った型」と事前準備
ライブ配信には、「ぶっつけ本番」「大項目だけ決める」「綿密な台本」の3つの型があります。この中から、自分の性格に合ったスタイルを選ぶことが大事です。そしてどんな型でも、徹底した事前準備は欠かせません。特にライブ配信では、商品の背景や生産者の想いを知ることが配信の深みをつくります。
原則3:「信頼できるチーム体制」
ライブ配信は一見個人プレーに見えますが、実はチーム戦です。トラブル対応やコメント整理、タイムキープなど、仲間の支えがクオリティを左右します。私は信頼できる仲間からフィードバックをもらいながら改善を重ねるスタイルを推奨しています。
