デジタルマーケは世の中をわかりやすくしすぎた AIが変える「売り方」と「測り方」
河野 「何が正しいのか」「何を信じるのか」といった、自分で考えて判断する力が今後は本当に重要になってくると思います。実際、「Sora 2(OpenAIの動画生成AI)」で生成された動画を見ると、フェイクとリアルの境目がどんどん曖昧になっていて恐ろしいですよね。簡単に本物っぽい映像が作れてしまうから、嘘が真実として拡散されることも増えてしまいそうです。
森野 本当にそうですよね。ニュースを見ても「どこの情報?」「誰が書いたの?」と確認しないと安心できない時代になってしまいました。AIで便利に買い物ができるようになったら、今度はAI自体を悪用して偽サイトに誘導し、個人情報を悪用する人も出てくるかもしれません。一周回って、認証されたショップだけが集まる会員制のモールなど「自分が信頼できるお店で買おう」という流れも出てきそうです。
河野 便利さと安心を求めた結果、「Amazonや楽天市場でいいじゃん」と原点回帰する人もいそうですよね。長年積み上げてきた信頼は、やはり大きいですから。
森野 そう考えると、ECでも「人の顔が見えるお店」は良いのかもしれません。まとめると、結局AIがどれだけ進化しても人は必要ということですよね。AIがすべてを代替できるわけではなくて、AIができないことに人の本質が問われるようになるのだと思います。店舗やブランドを運営するのであれば、「何を大切にしているのか」「どんな売り方をしたいのか」を明確にしないと、前に進みません。
河野 AIが人の仕事をすべて奪うというのは、現実的な話ではないと思うんですよね。AIは人の気まぐれや感情の揺れまでは汲み取れないですし……そう考えると、最後に必要なのはやはり「人の感覚」、つまり相手の表情や空気を読み取って“ちょうど良い提案”ができる人なんだと思います。
森野 AIをうまく使いながら、人は人の相手をしようということですね。
河野 今までは「作業」も含めて人が全部やらなければならなかったから、お客様と向き合う時間を思うように取れなかったケースもあるでしょう。AIが作業を肩代わりしてくれるようになれば、人の時間の使い方は大きく変わるはずです。便利なテクノロジーを享受しながらも、人の行動は産業革命より前の時代のようにコミュニケーションに重きを置いて、曖昧で揺れ動く“人間らしさ”を楽しむ。こうした生き方や商売の仕方が、今後は支持されるのかもしれません。
森野 最近は、誤字脱字を見つけるとそこに人間味を感じますし、AIっぽくない文章に安心する部分もありますよね。
ちなみに、従来は一般的だったメディアを通した顧客へのコミュニケーションはどうなっていくとお考えでしょうか?
河野 メディア出稿から露出・発信の流れを作るのが従来型の一般的な販売戦略でしたが、今はこれが通用しづらくなっている上に、誰にどこでどう見つけられるか本当に読めない時代となっています。なので、情報の広がり方や発見のされ方をコントロールしようとするよりも、どんな場所に出ても誤解されないように整えておくことが大事です。これまでのやり方を知っている人ほど、変化の大きさに戸惑う部分があると思います。
森野 SEOなら、Google Search Consoleがあればどんなクエリで来ているか、順位も流入経路もわかりますが、AIの世界はまだそれが見えづらいですよね。どんな会話で商品が出てきてどんな意図で選ばれたのか理解しづらく、まさに雲を掴むような感覚です。
ですから、評価の仕方も難しくなっていますよね。これまで明確な数値で成果を追っていた企業の担当者からすると、苦しいところもありそうです。
河野 デジタルマーケティングって、世の中をわかりやすくしすぎた部分もあると思います。数字で測れるのは便利ですが、“数字で見える成果を追うこと”が目的化してしまい、本当なら感情やタイミングなど様々な要素が絡み合って購入に至っているのに、それが置き去りになっているような気がします。カスタマージャーニーを図式化しつつ、「こんなに単純じゃないよね」と薄々勘づいている人もいるのではないでしょうか。
森野 コミュニケーションが複雑化しているなら、なおさら全部を把握するのは難しいですからね。
河野 AIに大量のデータを読ませれば完璧な予測ができるといったこともいわれますが、実際はまだそんなに万能ではないですよね。今の技術だと60点ぐらい、見た目上は最適なように見えても本当にベストな予測かはまだわからない、ある意味“それっぽい”ものだと思います。ただ、AIによって「自分に合っている」と感じられる情報の精度は確実に上がっているので、受け手側とフィットする機会は増えているはずです。
