“ビールをいつどこで開封したか”を可視化 飲用証明NFTとは?
NRF 2025 APACで大きなトピックスの一つとなったのが、オンラインとオフラインを行き来する“ハイブリッド消費者”だ。既にEC・マーケティング業界では当たり前の概念となりつつある。
もはや、消費者は買い物をする場所が実店舗かECサイトかを重視してはいない。つまり、今の時代、どちらかに販路が偏っている状況は危険ともいえるのではないだろうか。特に、これまで実店舗を中心に展開してきた小売にとって、OMOが顧客体験向上の重要な鍵であることは、共通認識となっている。
本イベントで、サントリーのデジタルイノベーションを担う稲葉陵太(Rio Popeye Inaba)氏、LVMH ジャパンのデジタルディレクターである遠藤友己氏が、このテーマに向き合った。

遠藤氏によれば、日本の顧客は特に感情的な価値、社会的地位、品質を重視するという。芸術性や限定品を所有する特別感を評価する側面も。そのラグジュアリー感を保ちながら、顧客とつながり続ける。LVMHのようなブランドのOMO推進において、重要な観点だ。
本講演で興味深いのは、そんなLVMH ジャパンとともに、飲料のような消耗品を取り扱うサントリーが登壇した点だろう。稲葉氏は、現代の消費者を飲み物に例えてこう話す。
「当社の商品は、1度消費されるとなくなってしまう。それとともに、お客様との関係も終わってしまうのです。どうすればお客様とつながり続けられるかは、重要な課題です」(稲葉氏)
その答えの一つとして、同社が挑戦しているのが「飲用証明NFT」の発行だ。たとえば、特別な日に高価格帯のプレミアムビールを飲んだ際、その記録をスマートフォンのウォレット上に残せたらどうだろうか。消耗品だとしても、後で見返して飲んだときの感情を思い出すきっかけになる。結果的に、商品が消費された後もサントリーが顧客との関係を継続できるというわけだ。中には、メダルのように「集めたい」と考える顧客もいるだろう。
もちろん、メリットはそれだけではない。サントリー側からは、顧客が商品をいつどこで開封したかがわかる仕組みとなっている。これにより、興味深い発見があったという。対象商品は日本のみでの販売だったにもかかわらず、イギリスや台湾、タイなど、様々な国で開封されていたのだ。一部の顧客が訪日時に購入し、自国に持ち帰っていると考えられる。サントリーのように、取り扱う商品が消耗品かつ直営店をメイン販路としない企業にとって、顧客の行動を把握する貴重なデータだ。