究極のOne to One・ダイナミックプライシング 中小EC事業者の「できない」は幻想に?
ここで注目されるのが、AI(人工知能)です。昨今よく話題になる「SEO対策でChatGPTにコンテンツを作らせる」や「検索に代わるAIへの商品ページの対策」などの使い方は、極めて表面的なものに過ぎません。本来向き合うべきAIの本質は「リソース面での貢献」です。
たとえば、多くのEC事業者が一度は夢見たであろう「究極のOne to One接客」。以前は、「専用ツールが高額すぎる」「顧客一人ひとりに合わせた運用を考える人材がいない」といった理由で断念するケースが大半でした。
ですが、AI技術の進歩により、ある程度パターン化された顧客セグメントやリアルタイム学習を通じたレコメンドが、低リソースで実現できる可能性が見えつつあります。こうした取り組みは、売上向上だけでなく顧客満足度の大幅な改善にもつながります。
また、ダイナミックプライシングの領域でも、AIが需要と供給、競合状況、在庫量、天候やSNSの盛り上がりといった複数要因を同時に解析して、リアルタイムで“ちょうど良い価格”を自動算出する仕組みが普及し始めています。一昔前は、海外の巨大EC企業など特定プレーヤーの専売特許でしたが、SaaS型のAIサービスが充実するにつれ、中小規模のEC事業者でも実験的に導入可能な時代が到来しています。
もちろん、常に価格が上下することに対するユーザー心理や、ブランドイメージへの影響など、考慮すべき要素も多々あります。しかし、やろうと思っても難しかったアイデアを試せる段階に入ったという点で、AIはEC事業者の「できなかったこと」を形にする心強いパートナーとなるはずです。
接客・オペレーション━━AI活用を進めるほど問われる「商売の本質」
AIと聞くと、まず思い浮かぶ「業務効率化」「自動化」「コスト削減」━━もちろんこれらは大きなメリットです。ただし、日本において今後重要になるのは、むしろ「攻めに転じるための活用」ではないでしょうか。ここでいくつかの例を挙げてみようと思います。
接客のアップグレード
チャットボットをはじめとするAI接客は、既に多くのECサイトで導入されています。24時間いつでも顧客対応できるうえ、大量の問い合わせを抱えるコールセンターの負荷を下げるなど、効率化の恩恵は大きいでしょう。
しかし、本当に目指すべきは「画一的なFAQ対応の自動化」だけではありません。
- 顧客が抱えている悩みや潜在ニーズを、AIが会話を通じて引き出す
- 興味を持ちそうな商品をコーディネートしてまとめて提案
- 購買履歴や閲覧履歴、SNSでの反応などを総合し、本人も気づいていない“ツボ”を見抜く
こうした“攻めの接客”をAIが担えれば、リアル店舗にも負けない豊かな購買体験が生まれます。人的リソースが十分でない事業者でも、高度な接客を提供できるかもしれません。すると、競合他社との差別化要因にもなり得るわけです。
オペレーションと商売の本質を見直す
もう一つ注目したいのは、サプライチェーンや物流の高度化です。AIを活用した需要予測の精度が上がれば、過剰在庫も品切れも最小限に抑えつつ、顧客への安定供給を実現できます。過去は経験や勘に頼っていた在庫管理が、ビッグデータや機械学習に裏打ちされた科学的根拠をもとに最適化されていけば、次のような改善が見込めるでしょう。
- “売り逃し”を防ぎながら過剰在庫リスクも低減
- 配送ルートの自動最適化でコスト削減&スピードアップ
- 倉庫内ロボットの導入+AI連携でピッキング・梱包を省力化
既に海外大手ECの倉庫では、AGV(自動搬送ロボット/無人搬送車)や自動仕分けシステムが当たり前になりつつありますが、日本も少子高齢化による人手不足を背景に「何をどうAIに任せるか」の検討が急務になっています。これは単なる業務効率化ではなく、「ECとは何か」「そもそも自社の商売はどうあるべきか」という根源的な問いと向き合うきっかけにもなるでしょう。