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J2所属時の入場料収入は下から2~3番目 でもグッズは売れていた
「地域に根ざしたスポーツクラブ」を掲げるJリーグは、競技力の向上のみならず、地元社会の発展へ貢献することを大切にしてきた。その理念を体現する存在が、全国に拠点を置く各サッカークラブである。
石川県全域をホームタウンとするツエーゲン金沢も、60あるJリーグクラブの一つだ。クラブの収益源は入場料やスポンサー収入など様々あるが、スタジアムなどで買えるオフィシャルグッズもその一つだ。人口減少が続く地方では、大都市圏と比べて観客動員やスポンサー獲得などの環境に恵まれないことが多く、グッズの売上が果たす役割も大きい。
元Jリーガーとして2015年~2022年までツエーゲン金沢に所属し、現在クラブキャプテンを務める廣井友信氏はこう語った。
「ツエーゲン金沢は、2023年までの9シーズンJ2リーグにいましたが、その間ずっと入場料収入は少なく、いつも同カテゴリー内の下から2~3番目だったと思います」(廣井氏)

J3となった2024年から、ツエーゲン金沢は新設された屋根付きのサッカー専用スタジアムをホームグラウンドとしているが、2023年までは屋根のない陸上競技場をホームにしていたため、当時約2万人のキャパシティに対して3,000〜4,000人ほどのまばらな観客席の試合も多かった。北陸地方は雨も多く、集客は伸び悩んだ。
一方で、ユニフォームをはじめとしたチーム関連のグッズ売上は観客数とは異なる動きをしていたと、ツエーゲン金沢でグッズ担当を務める眞道ろこ氏は話す。
「観客動員数に対してグッズの売上はそこまで低くなく、当時のJ2リーグの中では真ん中あたりに位置していたようです。分析してみるとお客様一人あたりの単価が高く、新しい企画にファンの方が反応してくださったり、リピートでご購入いただいたりといったことが多かったです」(眞道氏)
一般的に、ファンやサポーターの人数とグッズの売上は比例することが多い。ロイヤルユーザーが頻繁にグッズを買い求めてくれる背景には、どのような工夫や施策があったのだろうか。
「私は2023年からグッズ担当になったのですが、就任して最初にやったことは、『自分がサポーターとしてこれまで何を買ってきたのか』『どんなグッズなら手に取りたいと思うのか』を改めて見直すことでした」(眞道氏)
聞けば、眞道氏は神奈川県の出身で、小さい頃は家族と一緒に横浜F・マリノスの応援にスタジアムまで足繁く通っていたという。今でも、ご実家にはたくさんのマリノスグッズが保管してあるそうだ。
「実家のダンボールの中身をひっくり返して、過去に集めたグッズをざっと見直しました。『小さい頃の私のような、家族でスタジアムに足を運ぶファミリーサポーターには何が刺さるのだろう?』などと問いかけながら、グッズのアイデアを出していったのです。
もちろんマーケティングリサーチで分析を重ねた上で商品開発する方法もあるので、こうした担当者の“直感”に頼るようなやり方が必ずしも正解だとは思いません。でも、まずは一人のファンとして『どういうグッズがあったら嬉しいだろう』と想像してみることが、ものづくりのスタートには必要だと考えました」(眞道氏)