顧客の高齢化、食生活の変化にどう適応するか 伝統食を守る6代目の挑戦
泉鏡花、尾崎紅葉、室生犀星など、明治を代表する数多くの文豪たちが愛した「かぶら寿し」をご存知だろうか? 鮮魚と酢飯で握ったあの「鮨」ではなく、脂の乗った寒ぶりを、根菜であるかぶで挟んで発酵させた北陸の冬の風物詩だ。お正月に欠かせない縁起物として、ときには贈答品、ときにはおせち料理と一緒に食卓に並んできた。
そんな歴史ある食品も、いや、歴史がある伝統食品だからこそ、近年の食生活の変化には大きな影響を受けている。かぶら寿しを主力商品として扱う明治8年創業の老舗「四十萬谷本舗」の6代目 四十万谷正和氏は、その変化を機会と捉えて積極的に動いている一人だ。
北陸に住んでいないとピンと来ないかもしれないが、かぶら寿しは冬の食卓の風物詩だ。脂の乗った寒ぶりを、少し厚めに切ったかぶで挟んで糀で発酵させたこの食品は、日本海側の長く厳しい冬に重宝されてきた貴重な保存食であり、発酵によって旨味が増す高級食材でもある。かぶのしゃきしゃきとした食感と、ぶりの濃厚な脂が絡み合い、糀のほのかな甘みが全体を包み込む。現代でもお正月のおせち料理といっしょに並べられる、冬の味覚の主役である。
さかのぼること、江戸時代からの長い歴史をもつといわれるかぶら寿しだが、令和の現在ではいくつかの大きな変化の局面を迎えている。一つは利用層の高齢化だ。四十万谷氏はこう話す。
「ありがたいことに、かぶら寿しを長年ご利用いただいているファンのお客様はたくさんいらっしゃいます。当店でも、中には90代から100歳を超えるお客様もいらっしゃるくらいです。ただ、お電話などで通販の注文を受けていると『お友達が施設に入ってしまったから、今年は贈れないわ』『もう歯が悪くて食べられないの』といった話を多くうかがいます。お得意様の年齢層が着実に高齢化する中、新しい若い世代にどう利用していただくのか。それが目下の課題です」