街の郵便局の一角で出荷代行する例も 日本郵便の法人向けサービス
EC事業拡大に欠かせない物流環境の構築、利益の確保とブランド力向上を両立させるには、梱包の無駄の削減や安定した物流網の確保など、受注から配送までのフロー整備が鍵となる。
日本郵便は、日本国内の郵便・物流事業を中心とし、個人・法人向けに荷物を効率的かつ安全に届けるための商品・サービスを多数取りそろえている。「ゆうパック」「レターパック」などは、消費者としてその名を耳にしたり、利用した経験があったりする方も多いのではないだろうか。
「こうした消費者向けの展開だけでなく、日本郵便では数多くの配送経験を活かし、法人のお客さま向けに物流課題を解決するためのソリューション提案を行っています。特に近年は、EC事業者向けの商品・サービス開発を進め、顧客による注文から荷物の配送まで、ワンストップソリューションが提供できる点が強みです」

2023年度には、年間約174.6億通もの郵便物・荷物を配達した日本郵便。現在は郵便・物流事業や法人向けサービスの収益拡大を推進する堤氏も、元々は郵便局で配達業務を担っており、その現場感覚を現在のキャリアに活かしているという。郵便物流事業歴約30年、いわば物流のプロだ。
「現場で法人営業を担当していた時代には、多くの企業のニーズを耳にしました。こうしたお声と社内に蓄積されたノウハウをマッチさせたサービス開発に携わっています」
現在、日本郵便は5つのサービス分野に分け、法人向けサービスを提供している。
「物流ソリューションサービスでは、商品の保管、在庫管理、検品、ピッキング、梱包作業の代行といった配送の前工程となる業務のサポートだけでなく、BtoB向けECサイトの構築、受注システム・倉庫管理システム(WMS)の構築などといった、EC事業者の売上創出そのものに貢献する仕組み作りにも関わっています。
物流業務は、全国25ヵ所に拠点を有する営業倉庫に加え、皆さまの最寄りの郵便局にある空きスペースを活用して出荷作業の代行をしているケースもあります。『小ロットで他社には断られてしまう』『受注量が増える時期だけ頼みたい』『同梱物の封入作業をお願いしたい』といったご相談にもフレキシブルに対応しておりますので、ぜひ身構えずにご相談いただけたらと思います」

配送コスト削減に貢献 注目の新サービス「ゆうパケットパフ」とは
顧客の声に耳を傾けることで生まれたサービスの例として、堤氏は2025年2月25日にリリースした「ゆうパケットパフ」を紹介した。
「ゆうパケットパフは、年間1万個以上の小型荷物を配送する法人向けに、ゆうパックの最小規格(60サイズ)に満たないサイズの荷物を全国一律運賃で配送するサービスとして、提供を開始しました」

同サービスでは、専用袋と任意の箱いずれかの資材を選ぶことができ、原則1kgという重量の範囲であれば前者はA4サイズ相当の袋内に入れ放題、後者は厚さ7cmまでであればゆうパックよりも安価な料金での配送が可能となる。
「専用袋の発送は、近年勢いを増す海外越境ECプレーヤーの配送スキームにヒントを得ました。郵便バイクで配達ができるサイズかつ宅配ボックスや郵便受箱などへの非対面配達を原則としているため、配送コストを抑えたサービス提供を実現しています」
酒類など割れ物ECも確実に届ける 転居先の把握・転送は独自データで実現
ゆうパケットパフのように配送効率化・コスト削減に役立つサービスは、EC事業者にとっても活用メリットが大きいはずだ。しかし、対顧客に商品を届けるフローを任せるには「安心して届けられるか」「破損などなく確実に運べるか」といった点も重要となる。日本郵便は独自のサービスや仕組みを使い、こうした面も盤石なフォロー体制を築いているという。
「当社は居住者から申請される『転居届』だけでなく、配達時に『居住確認』をすることで居住者データベースを常に最新のものにしています。転居が確認できた際は、無料で1年間新住所へ転送する『転居・転送サービス』も提供していますので、高い配達率を誇っている点も特徴です」
このようなフォローアップの仕組みは、お中元・お歳暮など慣習的なギフト需要や通販の定期配送比率が高いEC事業者に特に役立つ。
たとえば、マッサージクレンジング「MANARA」などを開発・販売する株式会社ランクアップでは、定期購入者が顧客の多くを占めることから、日本郵便の法人向けサービスを導入する以前は商品の未着率・返送率に課題感をもっていた。しかし、日本郵便に委託先を変更し、居住者データベースに基づいた配達が可能となったことで、配達ロスの削減に成功。事業効率が大きく改善されたそうだ。
「『確実にものを届ける』という点では、破損率の低さも日本郵便の強みです。近年、酒類のEC需要が非常に高くなっていますが、瓶に入った商品は破損リスクが非常に高く、荷受を避ける運送会社もいらっしゃると耳にしました。
しかし、日本郵便では二段式ロールパレットをカゴ車として採用し、荷重がお預かりした荷物にかからないようにすることで破損、汚損、変形リスクを最小限に抑えています。こうした点が評価され、北海道の網走ビール株式会社さまや、沖縄で泡盛・ウイスキーを販売する久米仙酒造株式会社さまなどにもサービスをご利用いただいております」
越境ECの難易度を下げるUGX 関税手続き・海外モール納品を容易に
また、近年注目を集める越境ECについても、日本郵便では万国郵便連合(UPU)に加入する強みを活かし、独自の輸配送ネットワークを駆使した国際輸送・BtoC配送、海外モール出店時の配送サポートなどを提供している。
「国際宅配サービスの『UGX(ゆうグローバルエクスプレス)』では、関税元払いや複数個口扱いにも対応しています。国内のUGXセンターに荷物を送るだけで海外倉庫への納品や世界のお客さまへの配達が可能になるため、Amazon.comへの出店などといった販路拡張も大きくハードルを下げられます。茨城県で和物の製造・販売を手がける株式会社江戸てんさまは、UGXの利用で越境EC売上比率を約30%まで上昇されたとお聞きしました」
販促・コールセンター運営・BCP対策までカバー 最寄りの郵便局へ気軽に相談を
ここまで紹介したように、日本郵便は物流まわりだけでなく、ECビジネス成長の鍵となるサービスを様々な角度から提供している。時には業務効率化改善など、まるでコンサルティング企業のような提案をすることもあるそうだが、ここには「お客さまに寄り添い、本当に困っていることを解決したいという姿勢がある」と堤氏は強調する。
「たとえば、販売促進に困るお客さまには効果的な情報訴求の仕方やそれに合ったダイレクトメールの出し方をお伝えしたり、コールセンター運営で休日の人員確保に悩むお客さまには、土日の運営のみを日本郵便のグループ企業にアウトソーシングする案をお出ししたりと、お客さまの多岐にわたる課題に的確なアドバイスができる体制を整えています」

近年は、「災害時のリスク分散を念頭に置いたBCP(事業継続計画)対策の相談も多い」と続ける堤氏。ここにも、全国に約2.4万局存在する郵便局や25拠点ある営業倉庫、それぞれと企業や個人宅を結ぶ配達網といった、人々の生活と密につながってきた経験が大いに活かされているという。
「地域を支えてきた郵便局だからこそできる、細かなニーズの拾い上げもあると思っています。当社の法人向けサービス営業社員は現在1,000名ほどいますが、全国に拠点を構えているため、郵便局に寄せられたご相談にも速やかに対応可能です。
これまで対応してきたご相談の中には、『農産物の箱詰めを手伝ってほしい』『会社を立ち上げたばかりで梱包作業場がないため、郵便局の空きスペースを貸してほしい』といった依頼も存在します。当社は、地域の皆さまが困った時に気軽に相談できる相手になりたいと考えておりますので、物流やビジネスに関するお困りごとがあれば、些細なことでもぜひお申し付けください」