嫌いだった「マーケティング」という言葉 重要性に気づいたきっかけは
「わざわざ」の強みはクリエイティブにある。SNSに加えて、自社ECサイトのデザインや掲載する写真に「絶対的な自信がある」と平田氏。一方で「カートインの構造を甘く見ていた」と話す。
「リニューアル以前は、自社ECサイトのフロント部分を重視するあまり、購入直前の導線をないがしろにしていました。たとえば、冷凍食品とガラスのコップは一緒に発送できないのですが、それが可視化できておらず、追加の送料や決済に関する問い合わせが特に多かったです。その反省から、Shopifyへ移行したタイミングで、購入画面に送料の違いを表示する仕組みにしました」
その上、「わざわざ」は物流コストの高騰に対応するために、思い切って送料無料のボーダーラインを撤廃。一律550円に変更し、注意書きに加えた。これにより、送料への問い合わせはなくなったという。しかし、決済直前でのかご落ちが続出する。
「わかりやすくしすぎたのです。お客様がよいクリエイティブを見てわくわくしながら買い物かごに商品を入れても、購入画面で急に現実に引き戻されます。購入直前でのかご落ちが明らかに多かったこともありますが、EC事業を営んでいる知人にも指摘され、気づきました」
こうした発見から、平田氏は注意書きを減らし、サービス面の紹介を追加した。また、定期的にキャンペーンを実施し、送料無料で購入できる日も作っている。さらには、今まで詐欺被害が多かったために停止していた代引きを復活し、決済手段の拡充も行った。
「自社ECサイトの改善によって売上が徐々に回復したものの、それだけでは昨年対比で90%程度が限界でした。当社は、実店舗のほうが数は多いものの、売上の割合の多くをEC事業が占めています。EC売上が減ると、大きな痛手です。そこで、私をはじめ経営チームが運営に介入して、立て直しを始めました。
特に力を入れたのが、本格的なマーケティングです。新規顧客の流入数が少ないことは、データからわかっていました。そのため、現在はInstagramなどMeta広告によって、認知拡大を図っています。CRMにも力を入れており、メルマガ配信のセグメント分けも始めました」
その結果、スタートから3週間で売上が大幅に増加し、前年の記録を超えた。リピート購入の割合は35%から10%に減少しており、新規顧客が増えていることがわかる。
「創業時は、自分がよいと思った商品を伝えたい気持ちが強く、真摯に接客すれば売上につながると思っていました。そのため、マーケティングという言葉があまり好きではありませんでした。もちろん、それも一つの正解ですが、まずは知ってもらう努力をしなければなりません。広告運用をする上で、質の高いクリエイティブを既に準備できていた点が、当社のアドバンテージになりました」