宅配で「買い物困難者」を救う 必要だったアプリとECサイトのアップデートとは
──食材から日用品まで日常生活に欠かせない商品を販売しているコープさっぽろにとって、宅配事業はどのような存在なのでしょうか。
長谷川(コープさっぽろ) 2024年に総務省が発表した「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数」によると、北海道は全国平均を上回るスピードで人口減少が進んでおり、その結果、過疎地域では、住民がいてもスーパーマーケットを閉店せざるを得ないケースが珍しくありません。今のままでは、いわゆる「買い物困難者」と呼ばれる人々が徐々に増加することが予測できます。
この課題を解決するため、離島を含めた北海道全域に商品を届けているのが、コープさっぽろの宅配システム「トドック」です。2023年時点でトドックの年間供給高(売上高)は1,000億円を超えていますが、需要の高まりからさらなる成長が期待できます。
──元々「トドック」で注文する際は、カタログで商品を選び、注文番号を紙に記載する必要がありました。それが、2019年以降はアプリやECサイトでも購入可能となっています。新たな注文形式の追加により、どのような変化があったのでしょうか。
長谷川(コープさっぽろ) カタログ注文では、ページをめくりながら新しい商品と出会えるといった楽しみ方ができ、高齢者の方々を中心に使い勝手の良い点がメリットでした。一方、アプリやECサイトでは、電子版のカタログを見ずに欲しい商品だけ検索するユーザーが多い傾向にあります。
そのため、当初より検索エンジンは搭載していましたが「ビール」と検索すると「鮭」が表示されるなど、精度があまり高くなく、本来の役割を果たせていない状態でした。そこで、2022年11月にEC商品検索・サイト内検索エンジン「ZETA SEARCH」の導入を決めました。
髙田(コープさっぽろ) 新たな検索エンジンの導入にあたっては、様々なソリューションを比較検討しました。その中で「ZETA SEARCH」を選んだ理由は、運用のしやすさと費用のバランスです。導入後もしっかりとフォローしてもらえる体制があると知り、安心しました。
市川(ZETA) 検索エンジンの改善においては「0件ヒットなどの事象に対して同義語辞書を用いて改善を積み重ねていく」「継続してロジックをチューニングする」の2点がポイントです。コープさっぽろ様は課題が明確だったため、当社がこれまでに培ったノウハウを活かしつつ、基本的な仕組みを整えられるように提案していきました。
──「ZETA SEARCH」の導入により、「トドック」ではどのような効果が得られたのでしょうか。
髙田(コープさっぽろ) 基本的な機能とはいえ、ユーザーの検索キーワードと合致する商品が表示されるようになったのは、大きな進歩です。2024年9月時点のEC化率は約22%ですが、そのうち、同月の第1週には検索経由の供給構成比が12.6%となり、過去最高を記録しました。「ZETA SEARCH」の導入前は5%程度だったため、大幅な成長だといえます。
旬の食材を取り扱う当組合ではラインアップが頻繁に変化するため、時期によって在庫がないケースも多く、0件ヒットが発生しやすいです。こうした事象をできるだけ削減するために、表記揺れなども含めて検索キーワードに近い商品をZETAと一つずつ登録しています。
峰村(コープさっぽろ) 加えて、現在は検索結果画面で代替品の検索を提案するテストも開始しています。たとえば、商品名「A」という特定のインスタントラーメンが欠品している場合に「『A』ではなく『インスタントラーメン』でもう1度検索しませんか。」とご案内するイメージです。こうした、単なる検索を超えた気の利いた提案を行っていきたいと考えています。テスト結果を分析しながら、対応カテゴリーの拡大を検討しているところです。
「母の日」「運動会」など季節の需要を先回り データ分析から生まれた新施策
──日々、検索データの分析を行っているそうですが、新たな施策のヒントとなった発見はありますか。
峰村(コープさっぽろ) ZETAが毎月作成してくれる「0件ヒットリスト」から、想定とは異なる検索エンジンの使い方が見えてきました。たとえば、商品名ではなく「資源回収」と検索するなど、FAQのように活用しているユーザーの存在がわかったのです。たしかに、資源回収は当組合が提供しているサービスの一つですが、商品ではないため0件ヒットとなっていました。そこで、検索結果に資源回収の案内ページへ遷移可能なリンクを表示する仕組みを準備しています。
髙田(コープさっぽろ) また、「母の日」「運動会」などイベント名で検索されるケースも多いです。毎年訪れるイベントはZETAにリスト化してもらい、先回りして「母の日特集」といったカテゴリーを設けるようにしています。これにより「母の日」という検索に対して、イベントにマッチする商品を表示することが可能となりました。
出張(ZETA) 様々な事業者をサポートしている当社では、小売はもちろん、各業界で「この時期にはこの商品の需要が高まる」といったデータを蓄積しています。他社への支援を通じて培ったノウハウを活用し「母の日特集」のような施策を提案できる点も、強みの一つです。
レコメンド経由の供給量は前年比220%超 何がユーザーの「欲しい」を引き出したのか
──「ZETA SEARCH」に加えて、2023年4月にレコメンドエンジン「ZETA RECOMMEND」も導入していますが、その理由を教えてください。
長谷川(コープさっぽろ) 実店舗での買い物において、事前に決めていた商品でないにもかかわらず、たまたま目に映ったものを購入することはありませんか? こうした「非計画購買」をオンライン上で実現するには、商品との偶然の出会いを促す「レコメンド」が重要ではないでしょうか。
レコメンドする商品は「ユーザーの購買傾向や嗜好に合致したもの」「売り手が自信のあるもの」の大きく2種類に分けられます。そのうち、私が特に重視しているのは後者です。当組合の場合は、秋なら秋刀魚、冬なら大根と「今1番お得で美味しい商品」をレコメンドすることで、非計画購買につなげられると考えています。
髙田(コープさっぽろ) それを実現するために「ZETA RECOMMEND」を導入しました。「ZETA SEARCH」を通じて商品データが連携でき、運用しやすい点も決め手の一つです。導入からまだ1年半ほどですが、2024年9月時点でレコメンド経由の供給量は前年比226%の成長を見せています。
峰村(コープさっぽろ) 二つのソリューションを活用することで、実行できる施策の幅が広がってきています。これまで「トドック」のアプリやECサイトは比較的シンプルな仕様でしたが、今は「特売」マークが付与された商品の表示順を上げる、レコメンドする商品の優先度を調整するといった取り組みを始めています。
──各ソリューションの効果を最大化するために、ZETAはどのようなサポートを行っているのでしょうか。
出張(ZETA) 「ZETA SEARCH」では、検索されているキーワードとヒット数のデータなどを当社が収集し、ヒットする商品に違和感がないかなどを目視で確認した上で、都度チューニングを行っています。また「ZETA RECOMMEND」でレコメンド精度を磨き込むため、当社作成のレポートをもとにコープさっぽろ様との隔週の定例会で施策を議論し、A/Bテストを繰り返しています。
峰村(コープさっぽろ) コープさっぽろで取り扱う商品は食品や日用品が多く、1点1点の単価がアパレルなどと比べると低い傾向にあります。そのため、購入点数が1点追加されただけでは、合計金額が大きくは上がりません。今後は、まとめ買いを促せるようなUIに改善するなど、レコメンド施策を強化していくことが重要だと考えています。
商品の「買い方」まで提案 長谷川氏が描く「トドック」の未来像とは
──検索エンジン、レコメンドエンジンともに継続的なアップデートを行っていますが、今後はどのような機能を追加したいと考えていますか。
髙田(コープさっぽろ) アプリやECサイトの特性である「ショートタイムショッピング」を、検索エンジンで実現したいです。また、ユーザーが忙しい中でも美味しい商品と出会える機会を、レコメンドエンジンを通じて提供していきます。
アプリの導入後は、以前と比較して「トドック」ユーザーの年齢層が拡大しました。とはいえ、今でもトドックの利用者は60代以上が半数を占めています。今後の事業継続を見据えて、当組合はさらなる年齢層の拡大を目指しています。
私が「トドック」を利用し始めた際、「『トドック』で買ったご飯、美味しいね」と家族が喜んでくれました。同じ体験を多くのユーザーに届けていくために、「トドック」を単なるツールとして捉えず、買い物や食事を楽しくする場へと育てられるように、引き続き取り組んでいきます。
市川(ZETA) 他社への支援では、検索条件から商品に対する予算を予測し、ユーザーごとにレコメンドする商品を出し分けるといった施策も行っています。コープさっぽろ様も、購買行動の傾向などを分析していくことで、オリジナリティのある施策を実施できると考えています。
長谷川(コープさっぽろ) 加えて、現在力を入れている「トドック」の定期便にも、レコメンドが活用できるはずです。いざ定期便を利用しようと思っても、どの商品をどの程度の頻度で注文すれば良いかわからない方も多いでしょう。海外のスーパーマーケットのアプリでは「2週間に1回の購入がおすすめ」「4週間に1回の購入がおすすめ」のように、レコメンドしてくれるサービスもあります。同様の仕組みを「トドック」でも取り入れて、ユーザーの買い物の手間を減らしていきたいです。
将来的には、ユーザーが撮影した冷蔵庫内の写真をもとにレシピをレコメンドし、必要な食材をカートに自動で入れておくなど、ユーザーの「選ぶストレス」をさらに軽減するサービスを実現したいと考えています。
出張(ZETA) 売り手側は情報量が多いほうが親切だろうと考えますが、かえってユーザーが選び疲れするケースも多いです。実際に、検索結果が300件を超えるとクリック率が下がるという他社事例もあります。長谷川氏が考えるように、必要だと予測できる商品を絞り込んでレコメンドすれば、より顧客満足度を上げられるでしょう。
──こうした取り組みによって、コープさっぽろの事業をどのように成長させたいと考えていますか。
長谷川(コープさっぽろ) ユーザーから「コープさっぽろのサービスを利用していれば、安全かつ安心な生活が送れる」と思ってもらえる存在になりたいです。冠婚葬祭など人生で重要なイベントにおいて、ユーザーの生活すべてを支えられるサービスを目指していきます。
出張(ZETA) その実現に向けて、当社はアプリやECサイトだけでなく実店舗での施策から得られた知見も共有し、包括的なサポートを行っていきます。
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