ネガティブな口コミの掲載も信頼性や透明性につながる
では、どのようなフローでECサイトのメディア化を実現できるのだろうか。山崎氏は「まずは口コミ機能の導入が最優先だと考える」と話す。なぜならば、口コミの有無がユーザーの購買決定を大きく左右するからだという。
「『ネガティブな口コミを書き込まれないか心配』との声も聞きますが、企業にとって耳の痛い意見こそユーザーが欲しい情報と考えます。口コミを読まずに購入して後悔するより、ネガティブな面も理解した上で購入を判断したほうが、ユーザーの満足度は高いでしょう。自分が買い物する際、口コミが一つもない商品の購入を躊躇した経験はありませんか。今や、口コミはECサイトになくてはならない要素といえるのではないでしょうか」
また、蓄積された口コミはユーザーを理解する上でも重要な役割を果たす。膨大な口コミの中からAIなどで頻出キーワードや想定外の意見を抽出すると、ユーザーが商品に抱くイメージに加えて、隠れた需要まで見えてくるはずだ。その上、企業側の視点だけでは提供できないユーザーの「こんな情報が欲しかった」をカバーできるだろう。
「たとえば、元々スキンケアに興味がある人は、様々な化粧品ブランドのサイトを訪問して情報収集するのが苦ではないでしょう。しかし、普段あまりスキンケアに関心がない人にとっては、面倒に感じるかもしれません。そうした場合に『この化粧水とこの美容液は相性が良い』と書かれた口コミを提示すると、スムーズに購入に導くことができると考えます」
UGCが小売にもたらす新たなビジネスの可能性
ここまで、口コミやハッシュタグ、キュレーションコンテンツの効果を解説してきた山崎氏。「こうしたUGCはリテールメディアでも活用できる」と語る。
リテールメディアとは、複数のブランドの製品を販売するECサイトや小売店が提供する広告媒体を指す。特定の商品を探し、購入の一歩手前にいるユーザーに向けて広告を配信できる点がメリットだ。たとえば、早い段階でリテールメディア広告を取り入れたAmazonは、2022年の年間広告売上高が377億3,900万ドルとなった。広告事業が、小売にとって新たな収益源となる可能性を秘めていることがわかる。
「ECサイト上にUGCが多く存在していれば、情報収集している消費者が集まりやすく、結果的にPVやMAUが伸びると考えられます。メーカーやブランドは、そうした場に広告を配信することで、より効率的に集客数や売上の増加といった成果などのメリットを得ることができるでしょう」
これにより、ますますECサイトのメディア化が進むといえる。ただし、山崎氏は今後目指すべきECサイトの形を、「ECメディア」ではなくあえて「コマースメディア」と表現している。なぜなら、昨今は実店舗も含めたシームレスな購買体験の提供が求められていると考えるからだ。その先進的な事例の一つとして、海外を中心に活用が進むインストアアプリが挙げられる。
アメリカの大手スーパーマーケットチェーンであるウォルマートは、自社アプリに実店舗と連動する機能を搭載している。ユーザーが入店するとGPSで識別し、アプリ画面が実店舗に対応したものに変化する仕組みだ。「本日の特売は○○です」「○○は3階で販売しています」など、実店舗で買い物するユーザー専用のコンシェルジュとなる。こうしたインストアアプリにも、UGCを活用できるという。
「企業は、実店舗で自社アプリを閲覧しているユーザーに、リアルタイムで広告配信することができます。そこで、各商品の口コミやキュレーションコンテンツを表示するのも効果的でしょう。海外の小売店では、商品の値札に二次元コードを付与し、ユーザーがスマートフォンで読み込むと口コミを表示するといった工夫も見られます」