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消費者の母数が少ない地方でチャンスを拾えるか
東京や大阪などの大都市には、多くの消費者が住んでいます。そのため、スケールの大きなビジネスを展開できます。一方の地方はそうではありません。ビジネス規模に限界があります。
データで可視化してみましょう。ヨコ軸を「都道府県別の小売拠点数」、タテ軸を「小売1拠点あたりの人口」として散布図を作成しました。ヨコ軸は右にいけばいくほど、小売の店舗数が多いことを示しています。また、タテ軸は上にいけばいくほど、小売1店舗に対する消費者が多いことを表しています。
右上のポジションは、小売店舗数が多いだけなく1店舗あたりの売上額も期待できます。つまり「小売パワー」が大きい都道府県だといえるでしょう。東京、大阪、神奈川、愛知といった大都市が位置しています。反対に左下のポジションは、小売パワーが小さい県です。次にある散布図の拡大版からわかるように、多くの県が塊となって位置しています。
企業にとって、年齢、性別、収入、家族構成、嗜好性といった消費者属性は、ターゲットを定める上で重要なキーとなります。しかし、それ以前にどれだけの消費者をターゲットにできるかという「母数」は重要です。当たり前の考え方ですが、母数が多ければ多いほど、ターゲットの数も多くなります。
これは地方の中小メーカーにとって大切な視点です。散布図が示すように、ビジネスのパワーは都道府県間で大きな格差があります。ビジネスのパワーが小さい地元のみをターゲットにするだけでは、事業拡大は難しいでしょう。
とはいえ、自力で大都市圏の販路を開拓するのは容易ではなく、仮にチャレンジしても非効率です。したがって、地方の中小メーカーは多くの場合、卸売業者を頼ることになります。卸売業者の力を借りることができれば、販路が拡大します。結果的に、メーカーは良い製品の製造に集中できます。
しかしながら、単に卸売業者の力を借りれば確実に売上が上がるわけではありません。そこで、地方の中小メーカーの多くはEC事業を通じ、自らが販売者となるビジネスに乗り出しています。実際、楽天市場、Amazonでは数多くの地方の中小メーカーが製品を販売していることがわかります。
また、それらのプラットフォームに依存せず、自社ECサイトを主力チャネルとしている中小メーカーも数多くいるでしょう。日本政府や地方自治体も後押しすべく、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金などを通じて積極的に支援しています。こうした背景から、EC事業がうまくいっている地方の中小メーカーはいくつも存在します。
一方で、苦戦を強いられているケースも少なくありません。「どうすれば地方の中小ECを活性化できるのでしょうか?」という相談が、私宛てに持ち込まれる機会も増えています。人流がリアルチャネルに回帰しているトレンドもあって、大手ECですら当面の間苦戦を強いられる状態が続きそうです。そこで、次のページでは地方の中小メーカーがEC事業で苦戦する理由を紐解きます。