前回の記事はこちら
顧客理解と「突き抜ける差別化」の重要性がより増すAI時代
ChromeのCookie規制は2025年への延期が決定したものの、自社が保有する顧客データの解像度を高める手段として、AIを使った分析やそれらを生かしたCRM強化はトレンドとなりつつある。データ収集・活用は始めたその日がゴールではなく、蓄積とともに顧客の解像度が上がり、成果につながりやすくなるため、プラットフォーム側が設ける期日が先延ばしになったとしても、手を休める必要はない。むしろ、この準備期間に環境をどこまで磨き上げられるかが勝負だといえるだろう。
「実店舗や自社ECなどで接点をもった顧客の情報を、共通基盤に蓄積するのはもちろんですが、より顧客理解やアプローチの精度を高めるのであれば、コンタクトセンターやアプリ、SNS、メール、LINEなどといったコミュニケーションチャネルで収集した情報もつなぎ合わせるのが理想です。そこから得た示唆を、マーケティング活動やさらなるコミュニケーションに反映できたら、顧客との関係もより深いものとなるでしょう」
企業活動と、そこに集まる顧客のあらゆるデータが1ヵ所に集まれば、「生成AIのマーケティング文脈での活用領域もより広がる」と続ける早田氏。
たとえば、現在はデータから人間が見つけ出した共通項を基にペルソナを作り、議論していたとする。しかし、それはあくまで性年代や購入商品など、可視化しやすい要素を人間がピックアップして結びつけたものであり、一歩間違えると思い込みからの認識のずれや机上の空論にもなりかねない。そのまま検討した施策を走らせても、当然ながら思ったような成果にはつながらないだろう。なぜなら、その顧客は自分たちの売り場には存在しないからだ。
「データを深掘りする時間や人員のゆとりがあれば、『実は、商品Aを購入している顧客は共通して商品Bも比較検討している』といった共通項を見つけ出した上でペルソナの精度を高められますが、そうしたケースはまれでしょう。
ところが生成AIを活用すれば、データを蓄積した分だけ『実際に売り場にいる顧客』の共通項を示してくれます。自社のデータを食わせれば食わせるほど、人間が知恵を絞って考えるよりもスピーディーに、かつ鮮明な顧客像を描いてくれるのです」
これまでは顧客に謝礼を払うなどして実施していたユーザーインタビューも、顧客に扮した生成AIに聞けば、いつでもどんなささいなことでも相談に乗ってもらえる。「どうしてもAIが信用ならない」「答え合わせをしたい」「より詳細な生の声を得たい」といった場合のみアンケートやインタビューを実施すれば、経費や時間の削減にもつながる上、「人間にしか聞けないことを聞く」といったように、その会で達成したい目的も明確になりやすい。だからこそ、「重要になるのは差別化」だと早田氏は強調する。
「AIが容易に答えを示してくれる時代に『誰にでも売れるものを作ろう』としても、全員が同じことを考えたら突き抜けることはできません。むしろ、顧客理解を深めて定めた層に届くものづくりをどれだけできるかが、これからの難しさであり、おもしろさにもなると思います」