デジタルコマース総合研究所 代表の本谷です。eコマースに特化した調査・分析およびコンサルティングサービスを提供しています。このたび、「ECzine」にて「ECとメーカーの未来」をテーマとした連載を執筆することとなりました。
私の得意分野は、具体的なデータに基づきマクロの視点で市場や業界を捉えることです。本連載では、D2Cやメーカーを中心にEC市場を様々な角度から考察し、皆さんに示唆や有益なヒントをお伝えしたいと思っています。よろしくお付き合いください。なお、本連載ではD2Cを次のように定義します。
- 大手企業やスタートアップ企業を問わず、製品を自ら生み出す企業による自社サイトでのEC運営
- Amazon、楽天市場などECモール通じた販売分は含めない
D2Cの現状を直視する
自社ECのGMV(流通総額)は前年割れか
まずは、D2Cの現状の俯瞰から始めましょう。2022年の国内物販系BtoC-EC市場規模は、13兆9,997億円(経済産業省「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」)。うち、主要ECモール合計のGMV(流通総額)は、約10.7兆円と推計しています。これは、各企業の決算説明資料やアニュアルレポートおよび推計に必要な各種データなどをもとに、各ECモールの個別のGMVを独自に計算、合算してみた数値です。ここでいう主要ECモールとは、「Amazon」「楽天市場」「Yahoo!ショッピング」「ZOZOTOWN」「au PAYマーケット」「Qoo10」を指します。
よって、約3.3兆円が非ECモール、つまりD2Cを含む自社ECのGMVです。EC売上の大きい企業トップ500社程度を精査すると、自社ECを展開する企業の約半数はメーカーでした。この結果から、約3.3兆円のうち、D2Cはその約半分と推測できます。
前年の2021年の数値(経済産業省「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」)はどうでしょうか。同年の国内物販系BtoC-EC市場規模は、13兆2,865億円。うち上述した方法で推計した主要ECモール合計のGMVは、推定で約9.3兆円です。差し引きし、約4.0兆円が自社ECのGMVと考えられます。
つまり、2021年に約4.0兆円あった自社ECのGMVは、翌2022年には約3.3兆円となり、7,000億円減少しているのです。EC市場規模は伸びていながら、実は主要ECモールが市場規模拡大をけん引しており、D2Cを含む自社ECの市場はマイナス成長という驚きの結果です。
現在の消費行動はリアル店舗とECモールに大別
では、2023年のGMVはどうでしょうか。私の独自推計では、Amazon、楽天市場ともに堅調。特にAmazonは約5.2兆円と、2022年の約4.5兆円から大幅増です。
国内物販系BtoC-EC市場規模が経産省から発表されておらず、全体値が不明なため予想に過ぎませんが、2023年の自社ECのGMVはよくて横ばい、ひょっとすると2022年の約3.3兆円からさらに減少しているかもしれません。
EC市場全体が伸びているので、自社ECのGMVも当然伸びていると考える読者もいるでしょう。実は、短期的には自社ECの市場規模は縮小傾向にあるといえます。
D2C事業者の中には、こうした環境の変化を薄々感じている人もいるかもしれません。この推計が正しいことを前提にすれば、私はあえて現実を関係者全員で直視したほうが良いと思っています。
現在、新型コロナウイルス感染症の位置づけが5類感染症となり、消費者のリアル回帰が鮮明となっています。しかし、Amazonは好調をキープし、楽天市場も堅調な様子です。大局的な見方をすれば、現在の消費の場はリアル店舗とECモールに大別され、結果的にD2Cを含む自社ECはやや置いていかれています。私はこの状況を少し憂いており、D2Cには巻き返してほしいのです。