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ECzine Day 2024 June

2024年6月6日(木)10:00~17:40(予定)

おさえておきたいEC・通販先進企業

国内外のオタク需要を満たす虎の穴のEC戦略

 アニメや漫画、同人誌といったグッズ販売などを手がける虎の穴は、実店舗だけでなく自社EC「とらのあな」などにおいてもファンの心を揺さぶる仕組みづくりを行っています。本稿では、男女や国内外を問わず、多くの顧客を獲得している同社のEC戦略について解説します。

 日本のオタク産業は、強力なコンテンツ制作能力はもちろんですが、それを流通させる能力によって支えられていることも忘れてはいけません。アニメや漫画、同人誌などのグッズ販売やコンテンツ制作を手がける株式会社虎の穴は、日本全国に実店舗「とらのあな」を構え販売の拠点としているほか、同社のECサイトも堅調です。

 この記事では、そんな虎の穴が展開しているEC戦略について、国内外でどのような施策に取り組んでいるのか、詳しく解説します。

株式会社虎の穴の企業情報・事業内容の概要

 まずは、株式会社虎の穴の基本情報について紹介します。

株式会社虎の穴の企業情報

 以下に、株式会社虎の穴の企業情報をまとめました。

社名 株式会社虎の穴
本社所在地 東京都千代田区外神田3-5-1
設立年月 1996年7月
代表者名 代表取締役 吉田 博高 鮎澤 慎二郎
株式公開 未上場
資本金 2,000万円
おもなグループ会社
  • ユメノソラホールディングス株式会社
  • とら婚株式会社
  • クリエイティア株式会社

など

株式会社虎の穴の事業内容

 株式会社虎の穴は、コミックや同人誌、各種グッズの販売を手がけてきた小売事業者です。近年は自社でコンテンツの制作や出版に携わったり、アニメ制作への出資も手がけたりと、いわゆる「オタク消費」にまつわる多くの領域に参画しています。

 また、長年の業界経験を活かしたクリエイティブやメディア領域に関するWebサービスの企画運用も提供しており、BtoB向け需要にも応えています。近年はオタク趣味を持つ消費者同士の出会いの場を提供する婚活サービス「とら婚」も好評を博しており、人と人をつなぐ事業展開にも注目が集まります。

株式会社虎の穴の沿革

 以下の表は、株式会社虎の穴の沿革をまとめたものです。

沿革
1994年

虎の穴創業

秋葉原に出店

1996年

有限会社虎の穴設立

通信販売部開設

2000年 物流センター開設
2003年 有限会社から株式会社へ組織変更
2008年

千葉県市川市に物流センター移転

千葉県市川市に本社事務所移転

2013年

ユメノソラホールディングス株式会社設立

持ち株制へ移行

2014年 秋葉原に本社事務所移転
2016年

流物総額200億円突破

クリエイター支援プラットフォーム「Fantia」事業開始

2021年

構造改革計画を発表

オンラインサービスシフトを加速

2022年 流物総額300億円突破

 1994年に秋葉原に漫画やグッズなどの販売ショップを出店した虎の穴は、1996年の法人化に合わせて、早くから通信販売を手がけています。2000年には物流センターを開設し、日本全国へ速やかに商品を届けられるよう、自社流通網の構築を進めてきました。

 実店舗だけでなく、安定した物流網と通信販売の組み合わせた地域性にとらわれない全国的なファン形成を推進したことが功を奏し、ECが主流となりつつある昨今も、インディーズコミック市場のリーダーとして存在感を発揮しています。

 2010年代後半からは漫画やグッズなどの販売だけでなく、クリエイターが直接資金を獲得できるWebサービス「Fantia」の拡充も進め、クリエイターと消費者が新しい接点を持てるよう促していることがわかります。2021年にはさらなるオンラインシフトを宣言しており、これからの同社のデジタル戦略に期待が集まるところです。

男女を問わず支持される強力なオタク向けECサイトづくりの秘密

 株式会社虎の穴はここ数年で強力なEC推進を行うと同時に、性別を問わず利用できる環境整備に努め、成果を上げてきました。

コロナ禍を機にEC化をさらに強化

 株式会社虎の穴でEC化を大きく推進するきっかけとなったのが、新型コロナウイルスの感染拡大です。

 元々同社では、インターネットの普及とともにEC売上高を少しずつ伸ばしていました。2010年ごろには店舗とECの比率がおおむね5対5となり、ECにリソースの軸足を置くようになっていきます。EC偏重のトレンドは現在も続いており、2021年のEC売上比率は全体の約8割となりました。

 コロナ禍においても同社がこのような業績を達成できた理由としては、コロナ前からデジタル体験拡充に向けた開発投資を行っていたことや、流通におけるIoT導入で省力化を進めてきたことなどが挙げられます。これらの取り組みは同社がコロナ禍を見越して行っていたものではありませんが、結果的に功を奏したというわけです。

女性ユーザーにも支持される後払い決済導入の強み

 ECに関する株式会社虎の穴の注目すべき取り組みとして、もう一つ注目したいのが女性ユーザー獲得に向けた後払い決済の導入です。

 現在、同社が大きなシェアを誇る同人誌市場では、女性ユーザーが消費者の約6割を占めるといわれており、女性向けサービスの拡充は競合との差別化において重要な役割を果たします。

 同社では増加する女性ユーザーに合わせ、女性向けECサイトの「とらのあなJYOSHIBU」の立ち上げや、女性人気の高い後払い決済の導入などを進めました。通販における金銭トラブルの回避や、支出を常に把握しておきたいという女性ユーザーは多く、同社における後払い決済ユーザーのうち約88%が女性であるということです。

 また、同人誌は個人制作であるという都合上、書店に流通する書籍と比べて手に入るタイミングが限られており、見つけた時点で購入しておきたいという消費者心理も働きます。このような理由から、後払い決済は手数料が消費者に発生するものの、心理的負担を軽減できることから広く利用されているとのことです。

株式会社虎の穴の最近の動き

 続いて、株式会社虎の穴の最近の動向について、注目すべきニュースを解説します。

2022年度の虎の穴の流通総額は300億円超えの見通し

 株式会社虎の穴は、2022年6月期の流通総額が300億円を突破する見込みであることを発表しました。今後もEC強化を含めた事業構造改革を通じて、2025年6月までに400億円突破を目指すとして、さらなる成長への意欲を示しています。

 同社売上が好調である理由の一つに、クリエイター向けのファンディングサービス「Fantia(ファンティア)」の成長が挙げられます。サービスユーザー数は前期比約47%増の1,141万人、クリエイター登録数は同約73%増の51万人に増加するなど、右肩上がりの成長を続けるサービスです。

オタクに寄り添う結婚相談サービス「とら婚」が成婚者数1,000名を突破

 株式会社虎の穴が運営する、オタク層向けに特化した結婚相談サービス「とら婚」は、2022年11月に、とら婚利用者による成婚者数が1,000名を突破したと発表しました。

 カウンセリングやマッチングなどのサービスを通して、多様な趣味や生きがいを持つ男女の出会い作りから結婚までをサポートする同サービスは、オタク需要に応えてきた同社のノウハウを活用した事業といえます。

 さらに2022年10月からは、新ブランドである「とら婚コネクト」をスタートしました。実店舗への来店は不要で、入会や各種サポートなどをWEBで完結でき、月会費7,980円から利用できるオンライン特化型婚活サービスです。

Tokyo Otaku Modeでとらのあなグループのチャージ式WEBマネー『とらコイン』を販売開始

 2023年5月より、株式会社虎の穴は同グループのWebサービスFantiaや「CREATIA(クリエイティア)」などで使用できる電子マネーの「とらコイン」を、オタクカルチャーを世界に向けて発信するECサイト「Tokyo Otaku Mode」にて販売開始しました。

 これまで同社の各種サービスは国内ユーザーを対象としていたため、海外ユーザーの決済サービス利用は困難でした。しかし、Tokyo Otaku Modeでのとらコイン販売開始により、北米圏のユーザーがサービスをより気軽に利用できるようになるということです。

株式会社虎の穴のおもなトピックス

 そのほか、株式会社虎の穴の気になるトピックスを以下にまとめています。

2023年7月6日:とら婚の新サービス スパルタ式結婚相談所「とら婚道場」が2023年9月グランドオープン!

 アニメや漫画・ゲームなど趣味をこよなく愛するオタク層向けに特化した結婚相談サービスとら婚は、2023年9月に新サービスとしてスパルタ式結婚相談所「とら婚道場」のグランドオープンを決定。7月29日のプレオープンにともない、7月6日より無料カウンセリングの予約受付を開始した。

2023年6月20日:とらのあなが北米最大級のアニメ・コンベンション「Anime Expo 2023」に出展!

 株式会社虎の穴は、現地時間2023年7月1日よりアメリカのロサンゼルスで開催される北米最大級のアニメ・コンベンション「Anime Expo 2023」に出展することを発表した。

2022年10月21日:とらのあなが大阪日本橋に再進出!女性向け同人誌専門のインショップ「とらのあな出張所 in 駿河屋日本橋乙女館」を、10月22日にオープン!

 株式会社虎の穴は、2022年10月22日より大阪市浪速区の「駿河屋日本橋乙女館」2階に、ショップインショップ「とらのあな出張所 in 駿河屋日本橋乙女館」をオープンすることを発表した。

2022年7月5日:とらのあな、秋葉原店や新宿店など計5店舗を8月末で閉店

 虎の穴は、とらのあな秋葉原店A、新宿店、千葉店、なんば店A、梅田店の5店舗について、8月31日をもって閉店すると発表した。あわせて昨年から再出店を模索していた名古屋店についても出店を断念する。

2020年8月14日:とらのあな、社内エンジニア部門「虎の穴ラボ」でフルリモートワーク体制に続き、2020年8月より地方勤務制度を導入。

 株式会社虎の穴のグループ企業である虎の穴ラボ株式会社は、2020年8月より所属エンジニアの地方勤務制度を導入したことを発表した。

2019年10月24日:虎の穴が台湾EC市場に進出、現地グループ会社が台湾通販サイトをプレオープン

 虎の穴は10月23日、グループ会社の虎ノ穴有限公司(本社台湾台北市)の運営による台湾通販サイト「台湾虎之穴網路商店」をプレオープンすると発表した。

まとめ

 この記事では、株式会社虎の穴のビジネスモデルや、同社が創業以来進めてきたEC施策、そして近年のEC強化に関する戦略について解説しました。

 同社には国内外のオタク需要にECやWebサービスを通じて応えてきたノウハウがあり、この点においては他社の追従を許さない企業といえます。また、最近ではオタク需要への深い理解を活かした婚活サービスを提供するなど、形態を変えながら自社の強みを活かすビジネスモデルの構築にも力を入れています。

 インバウンド需要がコロナ禍の収束とともに増えるなか、同社が展開する次なる一手に期待が膨らむところです。

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この記事の著者

EC研究所(イーシーケンキュウジョ)

ECについての情報を調べ、まとめてお届けします。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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