IT小売業宣言から約5年 ベイシアが注力するアプリ活用
2018年に「IT小売業宣言」を行った土屋裕雅さんが会長を務めるベイシア。2020年10月には、スターバックス コーヒー ジャパンでデジタル化を推進していた亀山博史さんが加わり、現在進行形でオンラインのチャネル強化が進んでいる状況だ。
「ベイシアグループ内では、先んじてカインズがデジタル化を進めていました。これが大きな成果につながっており、2020年頃からグループ各社にもデジタル化推進の波が来たのです。
当時のe-コマース部は主にウェブサイトの画面作成・改修やECモールの運営などを手掛けていましたが、お恥ずかしながらECの利益率までは目を向けていない状況でした。売上と粗利の責任を持つのは商品部、経費はe-コマース部が持つというように、小売企業によく見られる役割分担がなされていたのです。
ところが、デジタル化を推進する中で利益構造を可視化したところ、早急に見直しが必要と言える結果が出てきました。今考えれば『そのKPIの持ちかただとそうなるよね』という状況でしたが、そこからお互いの認識のすり合わせやOMOを視野に入れた抜本的な改革が始まり、今に至ります」
現在のベイシアが持つオンラインの売り場は、主に「ベイシアアプリ」「ECモール」「ネットスーパー」の3つに分けることができる。
「とくに店頭と相乗効果を発揮し、業務効率化や成果につながっているのは、2020年12月にローンチしたベイシアアプリでの取り組みです。同アプリはポイントを貯めたり、チラシを閲覧できるようにするだけでなく、季節商材などの予約機能を実装しています」
正月のおせちやクリスマスのケーキ・オードブルなど、季節のイベントごとにさまざまな限定商品を展開するベイシアだが、従来はこうした予約をすべて各店舗のサービスカウンターで受け付けていた。顧客は申込用紙に必要項目を手書きで記入。記載内容を店舗スタッフが手動でデータベース上に入力して本部に送信していたが、膨大な手間とミスが課題になっていたと言う。
「アプリに予約機能を実装したことで、顧客はいつでもどこからでも希望する商品の注文ができるようになりました。また、顧客データが直接蓄積されるため、工数とミスの削減どちらにもつながっています」
現在、同アプリで予約を受け付けているのは日本の暦に応じたイベントが主だが、戸枝さんは「今後はより多彩なイベントや個人の記念日などもカバーできるよう、運用体制や品揃えの強化を進めていきたい」と語る。
「このように一歩進んだ施策を考えることができるのも、すでに季節のイベントで大きな成果につながっているからです。実はすでにバリエーション拡大に向けた取り組みは開始しており、2022年11月のボジョレー・ヌーボーの時期には、ワインとシャトーブリアンの予約受付を行いました。
ベイシアは牛を一頭買いしているため、日々一定数のシャトーブリアンを仕入れることが可能です。しかし、こうした高価格帯の商品は店頭に置くだけではなかなか売ることができず、課題を感じていました。そこでイベントに合わせてワインと一緒に楽しむ贅沢グルメとして割安価格で訴求したところ、大きな反響を得ることができました。
個人の記念日までカバーするとなると365日いつでも注文受付できる体制が必要となるため、まだ課題があるのも正直なところです。しかし、日本中にあるおいしいものを取り揃える、利益率などの関係から店頭に日常的に並べるのは難しい商品を予約販売するなど、アプリを使えば生産者と当社の廃棄率や負担の削減、利益率向上に加え、顧客への安価な商品提供も実現できます。『三方良し』な形でアプリに拡張性を持たせていきたいと考えています」